コラム・エッセイ
再び 睦月(二)
随想 季節の中で 西﨑博史(周南文化協会会長)令和6年元日夕に起きた能登半島地震の甚大な被害に胸が痛みます。惨状、世相を超えてそれでも季節は移りゆきます。美しい蝋細工に似た蝋梅が咲き、「大寒」を過ぎた今、2月4日の「立春」に向けて季節は和らいでいきます。木の枝を染めるような黄の花はその色と香りで季節を告げます。
新春恒例の「歌会始の儀」が19日に皇居・宮殿で催されました。今年のお題は「和」。コロナ禍の行動制限が解除された昨年に募集されて大震災の年明けの歌会始。「和」のお題が心に沁みました。天皇陛下は北海道や鹿児島など6道県に足を運ばれて温かい歓迎を受けた、お気持ちを詠まれました。
をちこちの旅路に会へる人びとの
笑顔を見れば心和みぬ
陛下の長女愛子さまの歌も心に響きました。学習院大学文学部日本語日本文学科4年生。中世に詠まれた歌が千年の時を経て受け継がれていることに感銘を覚えての一首です。
幾年の難き時代を乗り越えて
和歌のことばは我に響きぬ
万葉集から古今集、新古今集と編纂されてその後の中世の文学と思想を育んだ時代は、大火や大地震、飢饉に見舞われ、争乱にも苦しめられました。『枕草子』や『源氏物語』に代表される平安の王朝時代から源頼朝の鎌倉政権へ。平家が滅んで武家社会が樹立する、世も末かと思うほどの混乱の時代でした。
ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。
鴨長明の『方丈記』冒頭です。『方丈記』に続いて成立した吉田兼好の『徒然草』は第155段で綴ります。
生・住・異・滅の移りかはる、実の大事は、たけき河のみなぎり流るるが如し。しばしもとどこほらず、ただちに行ひゆくものなり。
私たちの世界は絶えず滅び去り、消え去ってゆくもの、つまり無常の世界に過ぎないと説きます。宗教的な思想に頼ることで法然や道元、親鸞などの宗教家、思想家も生まれました。
歌会始の入選者には能登半島地震で被災した石川県かほく市の市職員、宮村瑞穂さんの姿もありました。「大変でしたね」。両陛下のお言葉に「心の底から被災地を心配してくださっているのが伝わってきました」。無常の世にあって温かい言葉が力を与えてくれます。
