2026年05月01日(金)

コラム・エッセイ

再び 水無月(一)

随想 季節の中で 西﨑博史(周南文化協会会長)

 紫陽花が咲く頃、水辺には蛍が飛び始めます。闇の中を明滅する蛍の神秘的な光は私たちを幻想的な世界に誘ってくれます。水の音を聴きながらふんわりと流れる光に遠き日の思い出がよみがえります。

 短夜のあけゆく水の匂かな

 隅田川のほとりの浅草に育った久保田万太郎の郷愁の一句。終戦まもない昭和20年11月、東京をあとに鎌倉材木座に住まいを移しました。その新居で詠みました。大正10年生まれの長男耕一が応召された折の一句は蛍の光に心境を託しています。

 親一人子一人蛍光りけり

 6月10日から14日頃は七十二候の「腐草為蛍」(くされたるくさ ほたるとなる)。幼虫は水から上がると土に潜ってさなぎとなり、羽化すると草の下から這い出てきます。古くは蒸されて腐りかけた草が蛍に生まれ変わると信じられていました。

 蛍は初夏の風物詩の一つで、さまざまな思いが去来します。祖父母や両親と暮らしたふるさと、家族や友人と遊んだ旅先での蛍狩り。田畑が広がる山里で、山間の静かな温泉地で蛍を見ながら故人の面影を感じることがあります。80歳代から90歳代の人は戦時中から戦後の疎開先の日々を思い起こされるかもしれません。

 ゆるやかに着て人と逢ふ蛍の夜

 俳人、桂信子のこんな句を切なく懐かしむ人もいるでしょう。淡い恋心も共有した時間とともに思い出に変わります。

 6日の夜、山口市一の坂川を散策しました。山口県文化連盟の総会と文化交流会が湯田温泉の「かめ福」であってその帰りに仲間と足を運びました。8時過ぎの頃、あちらこちらの草間からふんわりとゆるやかに飛び交う蛍たち。川沿いの道や橋のたもとで足を止めて多くの人が光跡を追っていました。

 仲間の一人は吟行とばかりに句作に没頭。児玉源太郎顕彰会の「第8回藤園忌俳句」募集が始まったばかりで、夏季雑詠で応募すると張り切っています。他の仲間もこの光景を焼き付けて挑戦するそうです。

 蛍になぜ魅了されるのでしょう。カワニナを食べて育ち、成虫になると水しか飲みません。わずか2週間の短い命を燃やしながら舞い飛ぶ姿に幻を見るのでしょうか。平安中期の女流歌人、和泉式部の歌が脳裏に浮かびます。

 もの思へば沢の蛍もわが身より

  あくがれ出づる魂かとぞ見る

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