コラム・エッセイ
再々葉月(二)
随想 季節の中で 西﨑博史(周南文化協会会長)お盆を過ぎて朝晩は幾分しのぎやすくなりました。窓の下から虫の音が聴こえます。22日は二十四節気の「処暑」。暦の上では暑さが収まる頃とされます。
近年の地球温暖化の影響でこの感覚は薄れてきましたが、それでも法師蟬の「ツクツクホウシツクツクホウシ ツクリンヨーツクリンヨー」の鳴き声を耳にすると夏の終わりを実感します。油蟬から熊蟬、法師蟬と蟬の鳴き声も盛夏から晩夏へと移ろいます。
うちまもる母のまろ寝や法師蟬
伊予の俳人、芝不器男の一句。うたた寝の老いた母を見守る耳に、法師蟬が効果音を奏でます。明治36年(1903)に生まれ、東北大学在学中に「天の川」「ホトトギス」に投句。28歳の短い生涯に珠玉の句を残しました。
この季節に深山を歩けば「カナカナカナカナ」と鳴く蜩に出会います。日暮れに鳴くことが多いので一層物悲しく聴こえます。夏休みもあとわずか。小学生の頃は野山を駆け回り、海や川で魚を追い、暗くなるまで遊んでいました。法師蟬が鳴き始めると、宿題が気になって子ども心に寂しさを感じました。別れの切なさを歌った名曲も生まれました。
夏の終わり 夏の終わりには
ただ貴方に会いたくなるの
いつかと同じ風吹き抜けるから
森山直太朗の『夏の終わり』の一節。山下達郎の『さよなら夏の日』の歌に共感する人もいるでしょう。
さよなら夏の日
いつまでも忘れないよ
雨に濡れながら
僕等は大人になって行くよ
輝いた夏の日々。すべてを思い出に変えて季節が過ぎ行きます。夏の終わりの夕暮れに浜辺を裸足で歩けば遠い日がよみがえります。近所の人たちと行った海水浴、スイカ割り、小学生の仲間とのキャンプ、大学生の時には友だちと貸しボートで沖合の水無瀬島を一周しました。帰省するたびに光の海が懐かしくて砂浜に座って島々を眺めるのが習わしでした。
夏への別れを告げる季節。さまざまな思いを胸に新たな一歩を踏み出す季節でもあります。「暑いですね」の挨拶を繰り返しながらも秋は近づいています。
新涼の身にそふ灯影ありにけり
久保田万太郎
