2026年05月01日(金)

コラム・エッセイ

再々 如月(一)

随想 季節の中で 西﨑博史(周南文化協会会長)

 「立春」を過ぎて梅のつぼみがふくらみ始めました。梅の名所は「梅まつり」でにぎわいます。〈春よ来い 早く来い あるきはじめた みいちゃんが 赤い鼻緒の じょじょはいて おんもへ出たいと 待っている〉。相馬御風の詩に弘田龍太郎が大正12年(1923)に作曲した「春よ来い」。春を待ちわびる心があふれます。

 鍋料理が美味しい季節です。鰤や牡蠣、大根と鶏だんごなどどれも食欲をそそります。白菜や春菊も味を引き立てます。締めの雑炊は今や定番になりました。

 鍋にする?妻の言葉に相槌を打つ間もなくて献立決まる

 今から10年前の1月12日の読売歌壇に掲載された私の拙い一首(小池光選)。寒い日には茶がゆも恋しいです。山口県では周防大島や柳井辺りでよく食べられていました。私の母は田布施で生まれ育ったので光に嫁いでからも茶がゆを作ってくれました。時には薩摩芋を入れた芋がゆとして。正月の昼はお節料理を楽しみ、夜は茶がゆを食べるのがわが家の習慣でした。重い胃にやさしい味で白菜漬との相性がとても良かったです。

 奈良地方は昔から茶がゆが有名。昨年8月17日の産経新聞「朝晴れエッセー」を懐かしく読みました。橿原市に住む79歳の松場弘人さんの寄稿。「中学を卒業するまで茶粥で育った。私の田舎、奈良の東吉野では茶粥のことを『おかいさん』といった。祖母が茶粥をつくる70年以上前のシーンをよく覚えている。かまどに鍋を置き、ちゃん袋(茶袋)に入れた番茶で米を煮、木の杓子ですくっては落として吹きこぼれを防ぎ、出来上がるまでそばを離れなかった。絶品の茶粥の味は大阪市出身の今は亡き母が受け継いだ」。その情景が立ち上がってきました。エッセーはさらに続きます。4年前に胃に進行性のがんが見つかり、胃の3分の2を切除、余命半年と告知を受けた折、宇陀市に住む妹が鍋いっぱいの3代目「おかいさん」を持ってきてくれた。今も生かされ、穏やかな余生を過ごせるのは負けない気持ちと食に対する執念。「おかいさん」のおかげだと結んでいて胸に沁みました。

 米が貴重な時代に多くの人で分け合うことのできるのがおかゆでした。毎年夏には表千家周防清和会の朝がゆ茶会で一服のお茶と一碗のおかゆをいただきながら日本の文化と暮らしに思いを馳せます。

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