2026年04月30日(木)

コラム・エッセイ

如月(一)

随想 季節の中で 西﨑博史(周南文化協会会長)

 早くも如月。「きさらぎ」の語感が好きです。気更(きさら)に来るとか、生更(きさら)ぎとか、草木が更生する、といった意味があるようです。4日は「立春」。春の兆しを感じます。

 春は名のみの 風の寒さや
 谷の鶯 歌は思えど
 時にあらずと 声も立てず
 時にあらずと 声も立てず

 「早春賦」。この季節になると口ずさむ歌です。吉丸一昌の詩と中田章の曲が美しいです。合議制で作られる文部省唱歌を物足らなく思っていた吉丸は「新作唱歌」を次々と発表。「早春賦」は大正3年(1913)の第3集に掲載されました。東京音楽学校(現東京芸大)教授として活躍し、夏期講習の講師として信州を訪れた折、北アルプスのふもと安曇野(あずみの)の風景を題材にしたようです。作曲に若手を起用、東京音楽学校在学中の中田章が担当してこの名曲は生まれました。中田章は「夏の思い出」や「雪の降る街を」などを作曲した中田喜直の父親です。

 春と聞かねば 知らでありしを
 聞けば急(せ)かるる 胸の思(おもい)を
 いかにせよとの この頃か
 いかにせよとの この頃か

 3番の歌詞がとても印象深いです。春を待ちわびる心があふれます。余寒(よかん)や春寒(はるざむ)、春隣(はるとなり)といった言葉が浮かんできます。寒が明けて残っている寒さ、春といってもまだ寒い、春が隣に来ていますよ、という響きが素敵です。

 如月は梅の季節。各地から梅便りが届きます。俳人は梅を詠みます。江戸時代の芭蕉と蕪村、一茶の作品です。

 梅が香にのつと日の出る山路かな
 白梅に明くる夜ばかりとなりにけり
 梅が香やどなたが来ても欠(かけ)茶碗

 芭蕉の夜明けの大きな景色、蕪村の心穏やかに死出の旅を覚悟した辞世の句、一茶の貧しさの中でのおもてなし。一茶には反骨精神さえ感じます。
 芭蕉の門人、嵐雪(らんせつ)が詠んだ次の一句は有名です。嵐雪は蕉門十哲の一人。其角とともに江戸蕉門の双璧。

 梅一輪一りんほどのあたゝかさ

 梅の花が咲いて、そこには一輪分の暖かさが感じられます。私は次々と咲く梅の花を想像していました。真意は寒のさなかに咲く一輪の梅。梅の花を求める探梅の一句で季語は冬。俳誌「草炎」主宰の久行保徳さんが教えてくださいました。齢を重ねて知る喜び。それは生きる喜びでもあります。

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