2026年06月24日(水)

コラム・エッセイ

(90)朝焼け

再々周南新百景 佐森芳夫(画家)

 硫黄島での滞在時間は、わずか21時間30分であった。テントの設営や日没後の活動できない時間を除けば、余りにも短い時間であったが、それでも、主な目的の安徳天皇墓所と俊寛堂に無事にたどり着くことができた。

 その他、平家城跡、硫黄岳、東温泉、恋人岬公園、大浦港、坂本温泉など行きたいところは多くあった。特に、見通しが良いことから源氏の追っ手を監視していたと伝えられている平家城の跡には行ってみたかった。

 また、近くには硫黄島に一人残された俊寛が迎えの船を待ちわびていた「俊寛の涙石」がある。迎えに来る気配が一向にないことから、ついには、この石にすがって泣きもだえたことからこの名がついたと言われる。

 「俊寛の涙石」もぜひ見たいと思っていたが、平家城跡まで片道が4㎞もあることから、挑戦するのをあきらめた。起伏の激しい道のりではないが、体力に自信がないだけではなく、何かが起きてからでは遅すぎる。

 短い滞在時間にも関わらず、多くの経験ができた。キャンプ場で見た硫黄岳と稲村岳の朝焼けの風景は忘れられない。そばの長浜海岸では、かって島内の施設で飼われていたものが野生化したという孔雀に出会った。

 また、フェリーが発着する硫黄島港の埠頭では、西アフリカ民族の打楽器といわれるジャンベの演奏を聞くことができた。意外であったが、島内に、「みしまジャンベスクール」があるほどジャンベとの関わりは深い。

 帰りのフェリーの待合所に向かった。そこで、ジャンベの演奏の準備をしている男性に出会った。半年間の留学生として演奏を学んでいるという男性は、ジャンベの演奏を通じて叶えたい夢があると熱く語っていた。

 そして、ついに硫黄島との別れの時が来た。感謝の思いに浸る間もなく、フェリーは硫黄島港から次第に遠ざかっていった。それでも、見送る島の人達やジャンベを演奏する人達が見えなくなるまで、手を振り続けた。

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