コラム・エッセイ
(78)花束
続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)花束をもらった。それは、今までもらったことのあるどの花束よりも、強く心を打たれる花束であった。おそらく花の一つ一つに、若い人たちの気持ちとエネルギーが込められていたからであろう。
職場での最後の日は、何事もなくいつもと同じように終わるものと思っていた。まさか、突然、多くの人達からお礼の言葉とともに花束まで贈られるとは予想だにしていなかった。
男性81.41歳、女性87.45歳。厚生労働省が発表した2019年(平成31年)の男女の「平均寿命」である。平均寿命とは、「その年に生まれた0歳児が平均で何歳まで生きられるかを予測した数値」をいう。
年々延びているその数値を見て、誰もが「あと何年生きられる」などと一喜一憂するに違いないが、その一方で「健康寿命」という数値があることを知らない人が多いのではないかと思う。
健康寿命とは「日常生活を制限されることなく健康的に生活できる期間」のことである。2016年(平成28年)の数値による健康寿命は、男性72.14歳、女性74.79歳となっている。
あくまでも平均であって個人差があるのは当然だとしても、70歳の男性であれば健康的な生活が送れるのはあと約2年という衝撃的な数値である。それは誰もが避けては通ることができない数値でもある。
これらのことを頭の片隅にとどめながら、この春、長く勤めた職場を後にした。良い仲間に恵まれ、生き甲斐でもあった職場を去るのは辛く寂しいことでしかなかったが、最後は自らが決断した。
退職すれば、すべてが解決するわけではない。たとえ健康寿命が尽きたとしても、平均寿命までは生きなければならないことになる。花束は、新たな出発に勇気と元気を与えてくれる宝物に違いない。
