2026年05月28日(木)

コラム・エッセイ

(100)十六夜(いざよい)の月

続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)

 最近は、空を見上げることが少なくなった。それが夜空ともなれば尚更であろう。その理由は、気持ちにゆとりが無くなったと言うよりも、わざわざ空を見る必要がなくなったと言うべきかもしれない。

 あるいは、自動車を運転することが多くなって、前方を見る習慣が知らず知らずのうちに身についたからであろうか。さらに、歳を重ねると足元ばかりが気になることを加えなければならない。

 視野だけにとどまらず、視界が狭くなることの弊害は言うまでもないことであろう。時には空を見上げることによって、視野と視界を広く持つことの大切さを知ることも必要なことに違いない。

 もしかしたら、伝えられてきた年中行事には、その意味が込められているのかもしれない。たとえば、正月の初日の出や端午の節句の鯉のぼり、七夕の節句の天の川など空を見上げる行事が意外と多い。

 月見もその一つであろうか。9月21日は、8年ぶりに満月となる「中秋の名月」であったが、あいにくの曇り空で月見ができなかった。しかし、そんな夜にも「無月(むげつ)」という言葉がある。

 無月とは、なんと心温まる言葉であろうか。何としてでも月が見たいと思う強欲な人間にとっては、厚い雲におおわれた空を恨めしく思う浅ましい心を洗い流してくれる救いの言葉に聞こえる。

 さらに、天気予想によって月が見えることが期待されていた前夜の「小望月(こもちづき)」のあいにく薄雲のかかった月にさえも、「薄月(うすづき)」という美しい言葉があることを知った。

 次の日には、見事に晴れ渡った夜空に「十六夜(いざよい)」の月がくっきりと浮かんでいる姿を見ることができた。久しぶりに見上げた夜空に魅せられて、しばらく寝不足の日が続いた。

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