2026年05月28日(木)

コラム・エッセイ

(77)桜と菜の花

続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)

 時折り、窓ガラスを激しく打ちつける雨音で目を覚ました。深夜から降り始めた弱い雨が、明け方近くになって強い雨足に変わったのであろう。そこに強い風が吹き始めて、大荒れの天気になった。

 桜の咲くころに降る雨を「桜雨」といい、このころに吹き荒れる風を「花嵐」という。どちらも趣のある言葉であるが、この二つが同時に重なると悲惨な結果をまねくことは容易に想像できる。

 夜が明けるのを待って、雨に濡れたガラス越しに外を眺めてみた。昨日まで青空のもとで咲き誇っていた桜の花と菜の花が、今は激しい雨と風に打たれながら苦難に耐え忍んでいるように見えた。

 おそらく、このような光景は各地で見られたに違いない。桜雨のなんと残酷なものか、花嵐のなんと無残なものかと思う。そして、散ることなく花を咲かせ続けてくれることを願う。

 天気予想通り、昼過ぎには雨も風も上がってきた。さすがに2月ごろから咲き続けている菜の花にとっては、厳しかったようであるが、まだ満開前の桜の花にはさほど影響が見られなかった。

 桜の花を散らすほどの雨を「桜流し」というが、そんな雨にならなかったことに感謝しながら胸をなでおろした。さらに夕方近くになると、晴れ間がのぞくまで天気が回復した。

 コロナ禍では、桜の名所だけでなく、今まで気づかなかった身近な場所を発見できる新たな楽しみが増えた。今年の桜の花も、別れと出発の時にふさわしい風景となるに違いない。

 「桜ばな いのち一ぱいに 咲くからに
        生命をかけて わが眺めたり」    岡本かの子

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