コラム・エッセイ
(6) マリーゴールド
続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)十月に入るころになると、猫がヒザの上にやってくる。日ごろは呼んでも来ることのない猫が、この時ばかりは自ら進んでやってくる。微妙な気温の変化を、猫独自の繊細な感覚で知るからであろう。
猫にとってヒザの上が、しょせん暖房器具が出るまでの一時しのぎに過ぎないことぐらいは分かってはいても、ヒザの上で無防備にくつろぐ姿に無上の喜びを感じることができた。
足が痺れるころになると、その気配を察したかのように自分の居場所に帰っていく。その振り返ることのない後ろ姿を見送りながら、痺れから解放された安堵よりも一抹の寂しさを感じていた。
ところが、今年は、いつもより様子が少しばかり違った。季節外れの寒さで体調を崩した猫のために、早めに専用の暖房具を用意したことによって、ヒザの上にやって来ることが少なくなった。
それだけではなく、高齢の猫には寒さが余程こたえたのであろう、体調が回復することもなく日増しに容態が悪くなっていった。やがて、食べ物を口にすることさえできなくなった。
これまで元気に動き回っていた猫が、次第にやせ細っていく姿を見るのは辛い。可哀そうでならなかった。何とかしてやりたいと思うばかりで、何の手助けもしてやることができない苦しい日が続いた。
それでも、時には、よろけながらも歩く姿を見ると、回復するかもしれないといったかすかな望みを持つことができた。一進一退を繰り返しながら、一緒にいることができる幸せな時間が過ぎていった。
愛猫が天国に行った日、激しい雨が降った。窓ガラスを打ちつける雨つぶが、涙となって流れ落ちていく。16年5カ月の長い間、家族でいてくれて「ありがとう」そして「また会える日まで、さようなら」。
