コラム・エッセイ
(10) 多肉植物
続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)2階には、小さな三角出窓がある。名前ほどしゃれたものではなく、改築の時に付け足しただけの質素な窓にすぎないが、それでも日々の生活の中で欠くことのできない大切な役割をはたしてきた。
その一つが、猫のために居場所を提供することであった。山の斜面や坂道が見えるだけの代わり映えしない窓台が、猫にとってはお気に入りの場所であったらしいので当然かもしれないが。
留守番をしている時に寝ていることもあれば、陽がさす時間には日向ぼっこをしていることもあった。何をしていたのかは不明であったが、夜が明ける前には必ずといっていいほどこの場所にいた。
深夜には誰にも邪魔されずに、周辺を歩きまわる野良猫を見ることができたからであろうか。また、成果があったとは思えないが、夜陰に紛れて忍び寄る害獣を見張っていたのかもしれない。
しかし、一か月前に愛猫が天国に行ったことで、窓台は一つの役割を無事に終えることになった。空席となった窓台の上は、まるでペットロスに襲われた飼い主のような寂しさに包まれていた。
ペットを失うことによる悲しみは、予期しない時に突然やってくるもので、いつ終わるともしれないほど長く続く。それは、ペットを飼っている誰もが避けては通ることのできないものに違いない。
そんな思いが届いたのであろうか、かって猫が座っていた窓台の上に一個の鉢が置かれるようになった。白い鉢には、愛くるしい形が連なったセダム属という多肉植物が植えられている。
多肉植物と鉢との猫によく似たシルエットが、窓のそばを通るたびに、まるで天国の猫が帰ってきたような錯覚を起こさせる。そして、セダムのふっくらとした葉に、肉球の思い出が重なる。
