コラム・エッセイ
(17) 蛍石(ほたるいし)
続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)蛍石という鉱石がある。加熱すると発光してはじけ飛ぶ。その様子が蛍が飛んでいるように見えるところから、蛍石と名付けられたと言う。そんな蛍石に出会ったのは、半世紀以上も前の小学生の頃であった。
ある日、岩石鉱物を集めていることを知った近所の人が、蛍石の取れる場所に連れていってくれた。かって鉱山だったという場所は、ルース台風とかの被害で閉山したと聞いたような記憶が残っている。
それでも、坑口付近で数個の蛍石を拾うことができた。初めて目にする結晶の輝きに感動しただけでなく、ローソクの炎にかざすと、暗闇の中を蛍のように飛び散った神秘的な出来事に衝撃を受けた。
それだけの思い出がありながら、どこに行ったか分からないことに気づいたのは、かなりの時間が経過してからのことであった。時すでに遅く、ほとんどの記憶が消え去り、尋ねる人もいなくなっていた。
ところが最近になって、当時行ったであろうと思われる場所の手がかりを得ることができた。さっそく、地元の人や友人の助けを借りて現地を探索すると、ついにそれらしい場所を見つけることができた。
そこには、崩落した岩盤に開いた複数の坑口、祠(ほこら)が祀られていたと思われる跡、さらに関係するいくつかの設備など、鉱山として操業していたことを確認できる多くのものが残されていた。
具体的な場所は明らかにできないが、放置されてかなり長い年数が経っていることや大きな規模で操業されていたことなどから、詳細不明とされる岩国市美川町の草井谷鉱山跡にほぼ間違いないであろう。
操業当時に採掘されたと思われる蛍石が、地元の人によって大切に保管されていた。その引き込まれるような澄んだ色には、山中に消えていった鉱山の長い歴史を秘めているかのような輝きがあった。 (画家)
