コラム・エッセイ
(28)芍薬(しゃくやく)と熊蜂(くまばち)
続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)シャクヤクの美しい花を見ると、どうしても「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」の言葉を思い浮かべずにはいられない。ところが最近では、引用するのが難しい言葉の一つとなっている。
その理由に、女性の容姿や立ち振る舞いに関する表現であることをあげることができる。花の美しさとは関係ないのではと思う気持ちや残念と感じることそのものが問題とされる時代なのであろうか。
しかし、救いの道が残されていた。その言葉の別の意味に、花を美しく見る方法というものがあった。芍薬は立って見るのが、牡丹は座って見るのが、百合の花は歩いて見るのが最も良いとされている。
その真偽のほどはともかくとして、さらには、それぞれの花が咲く時期を、座る、立つ、歩くとした説もあるように多種多様の解釈がある。どれを選ぶかは、選ぶ人の自由であり責任でもあるのだろう。
満開に咲いたシャクヤクの花に、一匹のクマバチを見つけた。クマバチは周囲を気にすることもなく、花の蜜を集めることに夢中になっている。この時がチャンスとばかりに、間近で観察することができた。
クマバチは、アシナガバチやスズメバチなどと比べると非常におとなしい。ブーンという羽音たてて近くをホバーリング(空中停止)することはあっても、自分から襲ってくることは滅多にないといえる。
方言でクマンバチと呼ばれることもあるが、スズメバチの呼び方と混同されることもあって恐怖をあおるようにも聞こえてくる。それは、まるで、リムスキー・コルサコフの「熊蜂の飛行」のようでもある。
リムスキー・コルサコフは19世紀中葉のロシアの作曲家で、スペイン奇想曲や交響組曲「シェヘラザード」が有名である。わずか2分の「熊蜂の飛行」は、歌劇「サルタン皇帝」の間奏曲として演奏される。
