2026年05月28日(木)

コラム・エッセイ

(30)桑の実

続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)

 桑の実を収穫した。木枝から垂れ下がっている果実の中から、黒紫色に熟したものを選んでもぎ取った。完熟した実は柔らかく、強く扱うと粒が破れて中から赤黒い果汁が漏れ出してくるので注意が必要である。

 収穫した桑の実は、生でそのまま食べる事ができる。昔懐かしい甘い味がたまらない。まだオヤツというものがなかった子供のころに、先を争うようにして熟した実を探していた記憶がよみがえってくる。

 多くの量を収穫することができなかったが、ジャムや果樹酒にも利用することができるらしい。機会があればぜひ挑戦してみたいと思う。豊かな自然を満喫できる貴重すぎる一品になるに違いない。

 かって、どこの地域でも養蚕業(ようさんぎょう)が盛んに行われていた時代があった。養蚕とは、蚕(かいこ)を飼育して繭(まゆ)をつくることであるが、蚕の飼育には蚕の餌となる桑の葉を大量に必要とした。

 そのために桑の木を栽培する桑畑が各地に多く作られていた。その桑畑も、戦時中の農地転用や養蚕業の衰退とともにその役目を終えている。最近では、桑畑どころか桑の木さえも見ることが少なくなった。

 現在、収穫ができる桑の木の多くは新たに栽培されたものではなく、かって栽培されていたものが野生化や自生化して生き残ってきたものと思われる。歴史の生き証人として、貴重と言うべきものであろう。

 桑の木は一見目立たないように見えるが、葉の形に他の木が持っていない驚くべき特徴がある。その特徴については、「百聞は一見に如かず」の格言があるように、実際に目にする方が早いかもしれない。

 簡単に説明をすると、違った切込みのある葉が混ざっていることであろう。まるで蚕に食べられたかのような葉の形が、食べられることを知っているようで、切なくもあり、悲しくもあり、面白くもある。

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