コラム・エッセイ
(32)カタツムリ(蝸牛)
続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)11日に山口県が梅雨入りしたとの報道があった。平年に比べて7日遅く、昨年よりも31日遅いらしい。それを聞くと、昨年の梅雨入りが異常に早かったことは分かるが、記憶にはほとんど残っていない。
家庭菜園に関する作業記録などを書いていれば、その時の状況を正しく知ることができたに違いないが、家庭菜園を始めた時にそういったことはやらないと決めていた。それを今さら変える予定もない。
しかし、悠々自適の生活を送るのは良しとしても、せめてその日の天気や体調ぐらいは記録しておくべきではなかったかと、深く反省する出来事が起きた。それは、まったく予期しない時に突然やってきた。
ある朝、ベッドから起きようとした時に両腕に激痛が走った。四十肩や五十肩とも違う今まで一度も経験したことのない痛さに、体を支えることができなかった。腕がいかに大切であるかを思い知らされた。
腕を損傷した覚えもないので、とりあえず寝違えとして様子を見ることにした。ところが、食事や車の運転などの日常生活には支障がなかったものの、痛みは2、3日たっても数週間たっても改善しなかった。
原因が寝違えではなく別の事にあると気づいたのは、親戚の家を片付けに行った時に書いた記録からであった。もしそれがなければ、思いも寄らない原因について気づくことは決してなかったに違いない。
ゴミ屋敷状態の部屋に積み重ねられた大量のスーパーのレジ袋を、中身を仕分けるために両手の親指で強引にこじ開けた。その作業を数日続けたことによって、おそらく強度の筋肉疲労が起きていたのであろう。
梅雨空のもと、殻一つをまといながら生きているカタツムリの姿を目の当たりにすると、多くのものを買い求めながらも「足る」を知ることのない人間の愚かさを教えられているような気がしてならない。
