コラム・エッセイ
(35)モクゲンジ(木患子)
続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)光市の沖合に浮かぶ牛島では、島の各地に群生するモクゲンジが7月7日の七夕のころになると黄色い花を咲かせるという。その様子は、写真などによって広く知らされているが、実際に見ることは難しい。
その理由は、島にあるほとんどのモクゲンジが、歩いていくことが難しい断崖に群生しているからである。そのため、海上から見なければならないことになるが、見学用の観光船は運航されていない。
どうしても見たい場合には、瀬渡し船などを手配する必要がある。さらに海上からとなることで、強風や豪雨など天候に左右されるだけではなく、複雑に入り組んだ岩礁などに対する注意も必要となる。
モクゲンジの開花期間がおよそ一週間といわれる中での、かなり厳しい条件をクリアしなければならないことが、逆に県の天然記念物に指定されていることの希少性を高めていると言えるかもしれない。
しかし、島でモクゲンジを知らない人がいないのは当然だとしても、島外ではほとんど知られていないことの原因になっているような気がする。知名度があがればいいという問題ではないだろうが残念である。
今回、島の人の厚意によって、海上から長年の念願であったモクゲンジの花を見ることができた。その風景は、「30年間で一番」と毎年のように見続けてきた人が絶賛するほどすばらしいものであった。
牛島漁港を出港して、半時計回りの舟行では、波が穏やかな日であったこともあり各地で咲くモクゲンジの花をゆっくり確認することができた。竜尾岬から平茂岬、海附岬を巡り無事に帰港した。
モクゲンジの花は本数に著しいかたよりが見られるものの、民家のある牛島漁港周辺をのぞいた島全体に分布していた。いずれも人を寄せつけない場所であることが、植物生態学的にも貴重と思われる。
