2026年05月28日(木)

コラム・エッセイ

(54)ヒドリガモ(緋鳥鴨)

続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)

 二十四節気の小雪(しょうせつ)(11月22日)を過ぎると、やがて12月7日には大雪(たいせつ)を向かえる。そのころになると、紅葉に彩られていた山の風景も次第に色が消えて行き、厳しい冬の季節が到来する。

 そんな季節であっても、冬を過ごすために日本に渡ってきた「冬鳥」たちにとっては、さほど苦にならないのかもしれない。「ピュー、ピュー」とまるで笛を吹くような鳥の鳴き声が、川面から聞こえてくる。

 その鳴き声が何を意味しているのかは不明であるが、そばで聞いている限りでは、争っているのではなく楽しく遊んでいるように思われる。鳴き声の主を特定するのは難しいが、おそらく、ヒドリガモであろう。

 すぐ近くには車道や橋があり、多くの自動車が通り過ぎていく。時にはランニングをする人もいれば、通勤通学や散歩のために歩く人もいる。そんなことがあっても、警戒する素振りはいっこうに見られない。

 この日も、人を恐れることもなく、数羽のヒドリガモの群れがにぎやかに行ったり来たりを繰り返していた。時々見せる、下半身を残し上半身だけを水中に潜らせて川藻(かわも)をさがす姿が、可愛いらしい。

 そのヒドリガモの名前の由来になったとも言われているのが、頭部をおおっているやや深みをおびた朱色ともいえる緋色(ひいろ)である。一見すると地味な色に見える緋色であるが、決してそんなことはない。

 辞典では「平安時代から用いられた伝統色名」と説明されているほどである。さらに、緋色は、高官だけが身につけることができる高貴な色とされていた。仏教でも、緋色の法衣は最上位の僧侶が身に着けている。

 その緋の色は、野草の茜(あかね)の根で染められる。染める方法によって、深緋(ふかひ)、紅緋(べにひ)、浅緋(あさひ)などの色があるという。その伝統の限りない奥深さを、今も、ヒドリガモが伝えている。

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