2026年07月15日(水)

コラム・エッセイ

(55)干し柿

続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)

 干し柿が完成した。今年は、実家の渋柿が不作であったため、工面することに苦労したが、何とか作ることができた。しかし、いつもの渋柿と違っていたこともあって、残念ながら、良いものにはならなかった。

 それでも、皮の一部が残った見栄えの悪さとは関係なく、干し柿としての味はいつもの年と変わりない出来であった。むしろ、その不格好さが加わったことによって、違った魅力を醸し出していると言えるだろう。

 こうしたつまらない失敗を繰り返しながらも、毎年のように干し柿づくりを続けているのには深い訳がある。そのキッカケとなったのは、今から半世紀近く前に経験したある衝撃的な出来事からと言えるであろう。

 それは憧れのパリでのことであった。モンパルナス駅近くのエドガー・キネで週に何度か開かれていた朝市に行くことを楽しみにしていた。通りの両側に設営された店には、多くの野菜や果物、加工品などが並ぶ。

 見なれたものもあったが、見たこともない珍しいものも多くあったので何度通っても飽きることはなかった。ある日、何気なくのぞいた店先で、おそらく甘柿であろうと思われる柿が並べられてところを目にした。

 さらに、よく見ると柿には「KAKI」の表示がされていた。手持ちの『新仏和中辞典』で調べてみると、間違いなくフランス語であることが確認できた。突然のことに、足元をすくわれたような気分に襲われた。

 異国と言う目新しさに夢中になる余り、我を忘れていたのだろう。東アジア原産とされている柿が、日本語の名前で売られていることを嬉しいと思う前に、誇らしいと思う前に、すべきことがあるような気がした。

 以来、多くの柿が放置されている風景を目にすると、心が痛むようになった。放置される原因のほとんどが過疎化や高齢化によるものと思われるが、それでも干し柿などに有効利用されることを願ってやまない。

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