コラム・エッセイ
(58)初日の出
続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)新しい年を迎えた。数年前から単独による新春登山を自粛しているため、ご来光を拝むことはできなかったが、それでも、好天に恵まれたこともあって、市街地の近くから「初日の出」を拝むことができた。
やはり、「初日の出」には、いつもの日の出とは違った神々(こうごう)しさが感じられる。さらに、それだけではなく、日の出前の薄明(はくめい)でさえも厳(おごそ)かな雰囲気を漂わせているような気がした。
薄明とは、日の出前や日の入り後の空がうっすらと明るい時のことであり、太陽の位置によって「天文薄明」「航海薄明」「市民薄明」がある。これらが順にやってくることによって空の色が刻々と変わっていく。
日の入りの時には、「市民薄明」「航海薄明」「天文薄明」のように日の出の時と順序が逆になる。ともすれば、日の出時や日の入り時だけに注目することが多いかもしれないが、薄明時にもぜひ注目してほしい。
朝夕ともに通勤通学などで忙しい時間帯に違いないであろうが、少しばかりの間、足を止めて空を見上げるだけでよい。タイミングが良ければ、思いも寄らない神秘的な変化に思わず感嘆の声をあげるはずである。
その薄明時に空の色が変わる仕組みを完全に理解することは非常に難しい。ましてや、説明などできるはずもない。それよりも、仕組みを知ったところで役に立つことは何もないと、あきらめる方が無難である。
たとえば空が青く見えるのは空に色があるわけではなく、太陽の光線が空気中のチリや水蒸気にあたって飛び散ることによって青く見えていることや光の色が混ざると白くなることなど知る必要はないと言える。
それでも、ぜひ知っておきたいのは、日の出直前や日の入り直後の「市民薄明」が薄明のうちで一番美しいことであろう。さらに太陽の反対側の空に見えるピンク色の「ビーナスベルト」も見逃さないでほしい。