コラム・エッセイ
(61)閑人閑話(かんじんかんわ)
続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)散歩の途中で、不思議な光景に出会うことがある。散歩とは言っても、健康維持のためにといった具体的な目的があるものではない。歩きたいと思った時に、ふらりと出かける程度のいい加減なものに過ぎないが。
それでも、散歩に出ればいろいろな楽しいことが待っている。主に川沿いの道を歩くことが多いので、季節によって変化する川の流れや野鳥の姿などに加えて、気になっている不思議な光景に出会うことができる。
その不思議な光景は、どこにもありそうな流れが速くて浅い川面に、黄金色と紫色の輝きとなって現れる。昇りはじめた太陽が、水面に反射して輝いていることは確かであろうが、なぜ色がつくのかは分からない。
朝日によって反射した光線が白く輝くことが普通であることは、川沿いを歩けば容易に確認できる。しかし、光景が現れるのは特定の場所と時間に限られているので、いつでもどこからでも見られるわけではない。
とは言っても、そこは、時には自動車も通るほどの川沿いの道である。気づく人がいないはずがないが、ほとんどの人が何事もなかったかのように通り過ぎていく。ごく当たり前で、見慣れた風景なのであろうか。
もし本当に、誰一人として気づく人がいないのであれば、多くの人に知ってもらった方がいいと思う反面、今まで通りそっとしておいてた方がいいとも思う。どうすべきか迷っているうちに時間だけが過ぎていった。
よもや、光り輝いている場所を掘り起こすと金塊や黄金仏などが出てくるといった夢のようなことが起きるはずはないだろうが、それでも、何か良いことが起きる予兆であってほしいと、密かに願い続けている。
「閑人」とは、ひまで用のない人のことであり、「閑話」とは無駄話のことである。不思議な光景は、事実ではあるが「閑人閑話」に過ぎないであろう。役にたたなければ、川の流れのように読み流してほしい。
