コラム・エッセイ
(66)白梅(はくばい)
続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)「梅の花を取ってもいいですよ」。近所の方からそんな嬉しい言葉があった。わざわざ家にまで足を運んでもらっての厚意に、感謝しつつ甘えることにした。さっそく、ハサミとノコを手にしてその場に向かった。
ところが、今が盛りとばかりに咲き誇っている白い梅の花が小さく揺れている。どうやら、先客があったらしい。その正体は、「チー チー」とさえずりながら花から花へと忙しく動き回るメジロの群れであった。
オス鳥だけが鳴くらしいが、あまりにも動きが素早いのでどれが鳴いているのか分からない。そのたびに、満開の花びらがヒラヒラと舞い落ちている。メジロの食料を横取りするわけにもいかず、出直すことにした。
休耕地となっている場所に植えられた梅の木は、すでに周辺の梅の木などが低く剪定されていることもあって、他の樹木と接していない単独木として見ることができる。梅の木としては、非常に珍しい風景であろう。
いずれ、この梅の木も周辺の木と同じ高さに剪定されるとのことなので、こうして見ることができるのも今年限りになるだろう。残念な気もするが、昔から「桜伐(き)る馬鹿 梅伐(き)らぬ馬鹿」という言葉がある。
花を見て楽しむのも良いかもしれないが、梅を栽培する本来の目的は実を生らせることにあるはずである。剪定などの手入れをすることによって、実の付き方が良くなるのであれば、それに越したことはないと言える。
梅の花は、「雪中四友(せっちゅうのしゆう)」という言葉があるように、冬に咲く4種類の花として水仙(すいせん)、蠟梅(ろうばい)、山茶花(さざんか)とともに良く知られた花であり愛され続けている花でもある。
また、梅の花には、多くの別名がある。その中に香散見草(かざみぐさ)や匂草(においぐさ)があるように、香りが良い花としても親しまれてきた。玄関に飾った梅の花は、家中に甘い春の香りを漂わせている。
