コラム・エッセイ
周南新百景(70) 天女巌(テンニョイワ) (周南市櫛ヶ浜)
続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)![]()
公園内には、不思議な風景が広がっていた。池のように見える一段と低い場所には、最近水が貯められた形跡もなく、池底と思われる地面には雑草が生えていた。
さらに、特に名前があるとは思えないほどのごく普通の大小の岩が、無造作に配置されていた。岩は風化が進んでいるようで所どころにひび割れが発生し、すでに崩れ落ちた部分さえもあった。
周囲には東屋も備えられているが、冬の寒さのなかでは訪れる人もなく閑散としていた。しかし、東屋に近づいたその瞬間に、突然野犬が激しくほえたてた。かなりの数いるらしく、あたり一帯に鳴き声が響き渡った。
これ以上の散策は危険と判断して、公園の入口に引き返した。その途中で見た説明板には、この岩は古くから海中にあったもので、平成2年の埋立事業により半ば埋没して現在の姿になったと記されていた。
さらに、岩に生えていた松は弁財天の化身と言われ、その様がまるで天女が舞を舞っているようにみえたことから天女巌と呼ばれるようになったと伝えられている。
意外にも不思議な風景の正体は、保存された天女巌の姿であった。本来であれば埋立てによって消えたであろう風景が、こうして残されていることは驚きでありその尽力に感謝したいと思う。
公園に続く弁天山の頂上にある弁財天では、再び野犬の群れにほえられて祠に近づくことさえできなかった。貴重な場所が野犬の住みかになっているのは非常に残念である。
