2026年10月23日(金)

コラム・エッセイ

この世界の片隅に(谷先生)

ちょこっと豆知識 立入塾

 谷先生を初めて見たのは、5、6歳のころだったと記憶しています。親戚の法事で連れて行かれたお寺のご住職で、当時の私は生まれて初めて耳にするお経がとても恐ろしかったのですが、それ以上に気になったのが先生の左耳でした。右耳は普通でしたが、左耳は溶け落ちたようで、わずかに小指の先程度残っているだけでした。

 横に座っていた祖母に、自分の左耳を触りながらこっそりと「お坊様のお耳は?」と尋ねました。祖母は小声で、あれは戦争で失くしたのだと教えてくれました。法事のあと、祖母は改めて谷先生の話を聞かせてくれました。先生は高校で社会を教えているので、みんなから先生と呼ばれていること。そして左耳は広島の原爆でやられたこと。記憶違いがあるかもしれませんが、祖母のその時の語ってくれた言葉をそのまま書きます。

 「学生だった先生は8月6日朝、用事で広島へ向かっていた。乗っていた電車が岩国を過ぎた辺りで原爆が落とされ、電車の中で被爆された。体の左側が広島の方に向いていたので、左側だけ大やけどを負ってしまった」

 この話が私の戦争の初体験でした。その後、祖母や親戚からさまざまな戦争の話を聞かされ、戦争の悲惨さを二次的に体験していきました。

 昨年暮れ、防府の映画館へ「この世界の片隅に」を観に行きました。近くの映画館で上映しているのはここだけです。館内はほぼ満員で、しかも客の年齢が高い(半分以上が60代以上)のに驚きました。想像していた内容とは異なるものでしたが、私が聞かされた戦争の話と重なることが多く、悲しい内容なのですが、それ以上に当時の人々が戦時下でもたくましく生きている様が描かれ、強く共感しました。

 終戦から70年以上が過ぎ、戦争の惨禍は歴史の教科書の中だけで語られようとしています。映画の帰り道、一緒に行った若い世代の人へ谷先生の話をしようかと思いましたが、暮れの混雑した道では、とてもそんな話をする雰囲気ではありませんでした。

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