コラム・エッセイ
イヌガエリ
ちょこっと豆知識 立入塾櫛ケ浜駅から粭島へと続く県道170号は、旧国道188号(県道366号)と重複する区間を除くと、ほとんど信号が無い海沿いの快適な道が続きます。その中間地点辺りに「犬帰り」のバス停はあります。バス停の東側はすぐに海岸、西側は山が迫っています。かつての旧道はその西側の山中を通っていました。父の実家が県道沿いの集落にありましたので、子どもの頃は何度もこの道(旧道)を父の運転する車の助手席に乗って通ったものでした。明るい海岸線を走っていた車は急に薄暗い山中へと差し掛かり、数件ある家々の間をすり抜けるように続く山中の区間は、父の運転が少しだけ慎重になるのが子ども心にも分かりました。そして決まっていつもの話を始めます。
「ここはイヌガエリと言って、昔お殿様が飼っていた犬がいたずらをして、怒った殿様が家来に犬を捨てて来るように命じたんだ。家来はここならば戻ってこられないだろうと、山の中に犬を捨ててきたんだと。が、しばらくして捨てたはずの犬がお城に戻って来て、喜んだお殿様は犬を許して再び飼い続けた。で、犬を捨てたのがここら辺りで、イヌガエリってなったんだ」。父の話はここまででしたが、当時学校の歴史の授業で、5代将軍、徳川綱吉と生類憐みの令の事を知った私は、父の話していたお殿様は綱吉で、家来が柳沢吉保だと勝手に思っていました。
将軍綱吉の時代と言えば元禄。元禄の時代大きな事件が起こります。忠臣蔵で知られる赤穂浪士の討ち入りです。赤穂藩主浅野内匠頭が江戸城内で吉良上野介を切りつけたのがきっかけの事件です。藩主の仇をもくろむ浪士達を陰で支えたのが大阪の豪商天野屋利兵衛で、討ち入りの為の槍などの武器を調達しました。役人に捕まり拷問を受けても「天野屋利兵衛は男でござる。」と言って赤穂浪士の事は話しませんでした。このセリフを子供の頃車の助手席で何度も聞きました。それは、椿峠にあるドライブインへ家族で向かうときでした。父は決まって討ち入り蕎麦を注文していたと記憶します。
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