コラム「一言進言」
回天を反戦・平和のシンボルに
~「我が母の心籠りしおむすびを押しいただきて香を懐かしむ」~
■ なんとも熱い8月だ。毎年8月になると戦争がテーマになる。6日は広島、9日は長崎、そして15日が終戦と、戦争の傷跡をたどる特集が全国紙各紙、テレビなどで組まれる。毎年この時期は戦争の悲惨さ、醜さをテーマに残り少ない語り部たちが証言する。平和を、戦争のない世界をと訴える1カ月だ。
■ 戦争の遺跡としては、周南市の大津島の回天基地跡が有名だが、光市にも特攻兵器回天の訓練基地があった。「回天」は多くの映画やドキュメンタリーで取り上げられたが、全国的にも、もちろん世界的にも広がらない。広島や長崎は被害者の立場だからか、世界の要人も訪れ戦争の悲惨さを嘆く場所になっている。
■ ひとたび戦争になると、一番の被害者は銃も持てない女性や子どもたちだ。世界ではガザやウクライナで連日被害者が多数生まれているが、世界中の人たちはひたすら無事を願うことしかできない。しかし、「回天」に乗り込み散っていった若き兵士も被害者だった。決して英雄になりたい粗暴な若者ではなかった。故郷に残った親や兄弟を守るために「回天」に乗り込んだ。国を守っていたのは東京にいた指導者たちでなく、名もなき若き兵士たちだった。
■ 今こそ回天基地跡を残す大津島を日本中に、世界に訴える時だ。回天烈士へ忠魂の気持ちだけでなく、非戦の誓いをするときだ。二度とあの若者のような犠牲者を生み出さないために、回天基地跡を見てもらい、気持ちを共有する機会を作るべきだ。戦争が生み出す悲惨さを訴えていくべきだ。それには仕掛け方が足りない。もっと大胆なアピール方法を考えたらどうだろうか。
■ 周南観光コンベンション協会の設立後、有志達が集まり「平和の島プロジェクト」を立ち上げ、海軍カレーはじめ、回天烈士に出撃前、すき焼きを食べさせて送りだした話から「おしげさんすき焼き缶詰」などを売り出した。大阪のお笑い芸人が取り上げて一時大量の注文が殺到したこともあった。今は毎年「平和の島スピーチコンテスト」を開いている程度で、これといった活動が見られない。
■ 現在回天記念館に行っても、入場券の半券しか持って帰るものもない。昔は色々な団体が海軍旗を寄贈したりしていたが、旧徳山市時代、教育委員会が管理するようになり、軍国主義に通じるとの批判を恐れ、他団体からの協力を拒んでいる。記念館を維持、保存するだけが活動になって、全国向けの発信はほとんどない。
■「我が母の心籠りしおむすびを押しいただきて香を懐かしむ」回天烈士の辞世の短歌を伝えるのも、きっと反戦平和につながっていく。8月を懐かしむだけでなく、世界が平和になるきっかけの月にしたいものだ。
(中島 進)
