コラム・エッセイ
「おっしゃる通り」
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子国会の予算委員会の質疑の席で、国難とも言える新型コロナウィルス蔓延対策の会議を欠席したことの釈明を求められた閣僚の一人が、事実関係の「イエスかノーか」を問われても「イエス」「ノー」で答えることなく「おっしゃる通りです」としか答えない不思議な光景が報道された。日本の政治の低質化もここまで来たかと嘆かせるに十分な姿だった。
何を聞かれても直接には答えず「おっしゃる通り」と言うのは、後々事実関係が明らかになり、やり取りの食い違いを追求されても「私はイエスとかノーとか言っていない。“おっしゃる通り〟と言っただけだ」と言い逃れるための巧妙かつ卑劣な小手先対策として用いているのだろう。自分で編み出したのか、周囲の入れ知恵か、もしかしたらお父上のご指南かもしれないが、政権を担う立場にある者達の上から下まで、まさに「鯛は頭から腐る」現象を目の前で実証された思いだ。
山積する難事に国を挙げて取り組むべき時に、自らの選挙地盤の足固めを優先して重要会議をすっぽかすという判断力の拙劣さも呆れたことだが、その言い訳の対策に全力を挙げて知恵を絞り、そのあげくが「おっしゃる通り」の連発。本人は「どうだ、うまい答え方だろう」と得意満面の心地だったのだろうが、その姿を目にし、その言葉を耳にした者には「この人、全力挙げてこんなことしか言えないのか」としか感じない。
しかも、これを言ったのが、欠席三人閣僚の他の2人だったら「まあ、この人達はその程度だよ」とも思うのだが、最年少閣僚として、将来は最高権力者への道も開けていると嘱望されていた人なのだから、この人までこの程度だったことを見せつけられ、この政権の将来と、こんな政権に命運を任せなければならない日本の将来にますます悲観的になってしまう。この「おっしゃる通り」のひと言、この人の将来にも暗雲を投げかけぬわけにはいかないだろう。
言葉以外に自分を支えるものはなく、時に臨んで発する言葉に何よりも資質を問われる政治家が、自分の行動の是非を問われて、嘘ではないが責任逃れは出来そうな言い回しで逃げる人物だと満天下に晒してしまったのだから、庶民の失望は大きい。その事に気づいてかどうか、翌日には一転事実を表す言葉での答弁となっていたが、時既に遅し。一度覆った評価を取り戻すのは至難のことだろう。
改めて思う。政治家は言葉が命。思いつきで便利な逃げ言葉など操っていると、いずれ取り返しのつかない大きな代償を払わなければならないことを、この人は身を以て知ることになるだろう。
(カナダ好協会代表)
