コラム・エッセイ
オオタニサン
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子つい数年前まで私にとって「オオタニサン」と言えばTVのニュースワイド番組でコメンテイターとして登場する大谷氏だった。目尻の下がった温和な顔つきの、いい話には笑顔で、不祥事には厳しくコメントする、お気に入りのコメンテイターの一人だった。
それが今年になって、私の中で「オオタニサン」は突如大変身。50歳近くも若返り、海の向こうのロスアンジェラスで野球をしている。
野球そのものにはほとんど縁がなく、ルールにも疎いから、試合観戦をするほどの興味はなく、スポーツニュースで流れる映像を目にしたり、たまに通りかかる球場で試合後の観客が溢れて通れなくなった道路に驚くくらいの関わりだが、それでもホームランは誰でもいつでも打てるものではないだろうということはわかるし、一人で投げ続けるピッチャーの大変さも理解できる。
それを一人の選手が誰よりも多くホームランを打ち、投げても打たれず勝ち続けるということは普通ではあり得ないと思う。
小中学生の頃は郷土の代表が甲子園で競う高校野球に熱中したという我がつれ合いは「あの頃はピッチャーで4番は当たり前だった」と言うが、それは60年以上も前の、高校野球。プロ野球の、しかも野球の本場アメリカで打者として投手としてそれぞれ最高の成績を上げている、とても当たり前ではない姿を目のあたりにして、気分よからぬはずがない。
その上容姿抜群、伝えられる言動・人柄非の打ち所がなく、こんな人が現実に居て、しかも日本人。コロナ禍で外出自粛・ステイホームを迫られ、気持ちもとげとげしくなる中で、無条件に気分爽快にさせてくれる彼の活躍の効果は、メダルラッシュに湧いたオリンピック東京2020にも勝るものだと感じる。
思うに彼の最大の価値は、常人では考えられない投打にわたるいわゆる「二刀流」で抜群の成績を挙げているということではなく、それだけの実績を上げながら誰にも嫉妬されていないということ、伝えられる限り全人格者とも言える人柄の持ち主が、前人未踏の活躍をしていることにある。
コロナ禍終息のため、ワクチン接種に加えて人と人との接触を防ぐことが大切だということは理解されても、言うこととすることが真逆の為政者がいくら呼びかけても耳を貸されないが、もしオオタニサンが「皆さん、コロナ禍終息のため、しばらく我慢して行動自粛しましょう」と全国民に呼びかければ、ワクチン接種以上の効果を上げるのではないだろうか。
どうか明日からも、怪我や病気には無縁で、変わらぬ活躍をと期待しながら、ふとそんなことを想像した、残暑厳しいステイホームの一日だった。
(カナダ友好協会代表)
