コラム・エッセイ
治療と予防
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子大谷翔平さんと藤井聡太さん。二人の活躍はコロナウィルス禍に打ちのめされる日本社会を元気づける光明となっている。二人に共通するのはそれぞれの分野で頂点を極めたというだけでなく、謙虚さと礼儀正しさも兼ね備え、技倆・人柄、非の打ち所のない人格者だということで、無条件で賞賛できる、しかも日本の若者が、同じ時代に二人も現われたことに驚きもし、誇らしく感じる。
日本の若い力の象徴として、益々の活躍を続けて欲しいと願う。しかし日本社会を広く見渡すと、全体としては明るい希望の明日よりも、厳しい今日の現実の方が身近に感じられる。
中でも若者世代にとってはなかなか先の見通せない状況から抜け出せない思いが強くなるような環境が依然として続いていて、スーパースター達の活躍は閉じ込められた感情を一瞬解放して爽やかにする清涼剤としては働いても、活動を加速する栄養剤とまではなかなかにならないように感じる。
将来の明るい展望が開きがたい思いの若者の中でも特に深刻な状況にあるのが、これまでも何度も取り上げてきたひきこもり状態にある人達だ。長い間余り知られていなかった実態が次第に明らかになり、10代から60代にも亘って、百数十万人と言われる数に及んでいる。
ひきこもりに伴う最も大きな問題は、周囲との人間関係に抱いた不安が容易には解消されず、10年20年を経ても自分や家族の望む変化を得ることなく時間が経過することだ。
貴重な労働力となる世代の損失に危機を感じた政府も積極的な治療・社会復帰支援を進めているが、ひきこもりは病気ではなく、それぞれの人に働く様々なストレスの結果生じた、自分の家にひきこもるしか安心できるところがないという状態のことだから、こうすれば治るという明確な治療法があるわけではなく、状況はなかなか改善されていない。
だから、この問題は起ってから対策を考える、支援をするというのでなく、起らないようにすることを考えることの方が大切で、治療法を考えるよりも予防策を講じることの方がはるかに大事で効果もあると考えられるのだが、不思議なことに国の施策にも、様々な機関の対応にも予防の視点はほとんど見られない。
特に深刻な状況が起っている10代後半から30代までの学校・職場環境での予防的取組みは例を知らない。事故や病気には、起ってからの治療・支援も大切だが予防が大切ということは誰もが納得し、社会も政治もそのように動いている。
ひきこもりが深刻な社会問題と認識されるならば、予防の視点からの取組みが広く深く進められるよう、心から願っている。
(カナダ友好協会代表)
