コラム・エッセイ
先読みプレゼント
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子もう20年以上も前のこと、市民講座だったか、何か他の医療講演だったか記憶がおぼろげだが、老年期の健康についての話の中で、T整形外科のN先生が、老齢者の健康生活維持にとって重要なのは転ばぬことで、そのためには二本足生活から3本足生活にうまく乗り換えることだと力説され、高齢者は日常生活に杖を採り入れることを躊躇しないようにと話しておられた。
あれから20年。胸を張って高齢者と言える後期高齢のまっただ中に夫婦そろって座を占めるようになったが、幸いここまでは3本足生活に積極的に馴染まないで過ごせてきていた。
ところがこの春、青天の霹靂の大病を患い、入院生活を送った我が連れ合い。退院後は順調な回復で後遺症もなく、職場復帰も近い、うまくいけば自宅に戻って以前のように一人暮らしも出来るかと本人の期待は大きかったが、世の中何事も思うようには運ばない。順調だった足の運びが怪しくなり、痛くて歩けないと立ち止まるようになり、職場復帰も遠のいた。
これは大変と、本人以上に心配した娘がネットショップを検索し、いろいろ選んでくれた杖の数々。痛みに耐えて寄りかかるだけでなく、ともかく転ばぬようにと3本足、4本足スタイルいろいろ試して、最後に行き着いたのがワンタッチで開き椅子になる杖。
痛くて歩けなくなるとどこかに座って休む場所を探すつれあい殿にとってはこの上なく便利な助け舟で、実際に使ってみて確かめ、出かけるときの必需品になっている。まるで自分のために開発されたような商品にいたく満足で、見た目は多少不格好なその杖を外出時には片時も離さず、転ばぬ先の杖でもあり、痛みに耐えられず、転びそうになった時に体を休める介助者にもなっていて、わがつれ合いにとっては行動を支える最高の道具になっている。
そこに加わったもう1本。なんともお洒落な飾り握りと、黒塗り仕上げの桜材のステッキ。つれあい殿が発病/退院後歩行に不便を抱えていることを伝え聞いた昔の生徒さんYさんからのプレゼント。歩行困難なら、転ばぬための杖は持っているだろう。本当に自分に合うものでなければせっかく贈っても使えないかもしれない。でもいつかは回復し、楽しみにどこかへお出かけしたくなることもあるだろう。
そんな時に「転ばぬための杖」でなく、「お洒落なお供」になるように、ステッキを選びましたというメッセージ付きだった。そんなお洒落なプレゼント。まだ出番の時は訪れないが、そのうち、椅子杖の必要のなくなったつれあい殿の手に握られてあちこちに同行する日が来ることを、私も心から願っている。
(カナダ友好協会代表)
杖とステッキ
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