コラム・エッセイ
あっけない謎解き
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子半年ばかり前、我がつれ合いが東京の八重洲地下街で、ポケットを札束でふくらませた怪しい男に親しげに話しかけられ、あれは一体誰だったのだろうと、胸の内のもやもや状態が続いている話をご紹介した。
結局このもやもやは今も続いているらしいのだが、そこにもう一つ謎の事件が起こった。先月の中頃、連れ合い宛に一通の封書が届いた。はて誰からだろうと裏面を見るとそこは空白、差出人の名が記されていない。かなりうっかり者だなと笑いを抑えながら封を切ると、中には短いメッセージと鉄道割引券。
メッセージには、東京での同期会に毎回はるばる西の端から参加するつれ合い殿をねぎらい、この春の再会を待つ言葉が記されているのだが、ここにも差出人を知る手がかりは少ない。一体誰なのか。心当たりの友人からはことごとく覚えはないとの回答があった。
いずれにしても同期の誰かであることは間違いなさそうだが、思い浮かぶ友人達とは明らかに筆跡が異なる。ならばと、保存してある年賀状の束をほどいて筆跡鑑定を試みたが、パソコン時代の年賀状はほとんどが活字印刷で、筆跡照合も難しい。消印からは恐らく関東の住人と考えられたので、関東地区の幹事役Iさんに封書の画像を添えて問合せたが、結果は同じで進展はない。
自分の名前をちゃんと書いておいてくれればこんな苦労はしなくてよいのにと、有り難い贈り物にもちょっとばかり恨み節も加わっていたのだが、この話しばらくして急転直下解明となった。
昨年末肺がんの診断を受け、抗がん剤治療を受けていた同期生のひとりが薬効甲斐なく急逝の知らせに、葬儀参列のため関東へ向かったつれ合い殿。お通夜の儀式を終え、会食の席で参列の同期生達と語りを交わしているうちに、一人から「おい、届いたか?」と声を掛けられたそうだ。「何だ、お前だったのか!」普段の付き合いはほとんどないが、同期会ではいつも親しく語り合うその友人が、手元にあった優待券を遠方から参加するつれ合い殿に進呈することを思いつき、いたずら心の誘いのままに、差出人のない贈り物に戸惑う姿を想像しながら投函したのだという。
狙い通りの効果を上げたその友人と、急転直下謎解きの出来たつれ合い殿はお通夜の会場では不謹慎な笑いを遠慮がちに漏らしたそうだ。一件落着で先ずはめでたいことだが、もう一つの八重洲地下街の怪人、こちらの謎はいつ解けるのだろう。
(カナダ友好協会代表)
