コラム・エッセイ
秋の味覚
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子秋の味覚と言えば思い浮かぶものは色々あるが、日本中を黄金の穂波で彩る新米は別格として、まずは果物。梨にブドウ、柿、栗、リンゴにいちじくと、童心に帰って売り場の果物を数え上げるのも目の楽しみだが、最近の売り場にはちょっと異変が起こっていて、他を圧して売り場に君臨しているのが薄緑の宝石にも譬えられるシャインマスカット。
皮ごと食べられ、甘さも抜群、名に恥じぬ風格で、相応に値段も高いが、時に思わぬ安値に驚かされる。どうやらこれがこの季節に報道欄を賑わすシャインマスカット問題なのだろう。新品種のブドウとして日本で開発されたのだが、その種子だか苗木だかが密かに国外に持ち出され、近隣国が勝手に大規模栽培し、品質粗悪なのに名前は同じシャインマスカットとして安価に出荷して市場を攪乱し、本家本元の日本の生産農家に大迷惑をかけているらしい。
こうしたことは農産物に限らず、有望な新商品が開発されるとつきまとうやっかいな問題だが、悪貨が良貨を駆逐する結果になったのでは許しがたいが、同じ名前で色合いは似ていても、甘さも形も日本産には到底及ばず安いだけという、品質には横綱と序の口ほどの差があるものらしい。本家の生産者には価格差が消費者に納得して受け入れられるよう、圧倒的な品質差をこれからも維持し、同じ名前で色だけ合わせても、同じ土俵には上れないことを思い知らせる努力と工夫とで市場を守って下さいとエールを送るのみ。
そんな思いで売り場巡りをし帰宅したところに、知り合いのTさんから宅配便が届いた。添えられたメッセージには、今年も菜園の秋の収穫に汗を流し、初掘りの安納芋と紫芋を送りますとある。
安納芋という文字に思わず頬が緩む。焼き芋の王者。ふかしても良し、天ぷらも良し。収穫後すぐにではなく、少し寝かせてから食べた方がおいしいというアドバイスに従い、まだ箱にしまったまま、何から先にしようかと楽しく思案している。
ところでこの安納芋、日本での歴史は意外に浅く、第2次大戦後日本兵がスマトラから持ち帰り、種子島で栽培が始まったらしい。この話、何かシャインマスカットに似ている。
スマトラの栽培者が苦心の末作り出したものだったなら、事情は違っても話の仕組みは似ている。日本人の舌を満足させるこの味をいつまでも保てるよう心を込めて栽培を続け、ますますおいしく味わえるよう調理の工夫を凝らすことが、恵みをいただく私たちの務めだろう。
秋ふかし安納芋をふかし食む
(カナダ友好協会代表)
初掘り安納芋
