コラム・エッセイ
ちりも積もれば
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子「電気椅子に座ってくるー」
連れ合いの声に最初は一瞬「えー!なに?」と思ったが、今ではほぼ日課のように毎朝お出かけとなっている。
行き先はバスで停留所二つ先の整形外科医院。電極のついた吸引盤を貼り付けて電圧をかけリズミカルに刺激を与える治療器で、椅子に腰掛けて受けるから「電気椅子」と称しているらしい。
ダイヤルを回して強度を変え、強度を示すメーターが動くのに合わせて刺激が加わるのだが、メーターの動きを見ながら受ける刺激は結構快感らしい。しかし1回は10分と決まっていて、きっかり10分でタイマーが切れるから、刻々減っていく残り時間を追って残り1分を切ると、観念の目を閉じて、刺激の余韻を感じながら切電を迎えるのだが、1日1回だから、その日はそれで終わり。
10分間のために前後の待ち時間、通院のための往復時間を加えると1時間以上費やすことになるし、先月からは高齢者医療保険料も2倍になったのだから、そんなに毎日行くことでもないのではと思うのだが、これには深いわけがあるという。
春の手術入院以来腰の痛みに悩まされ、リハビリ通院を続けたがなかなか効果が上がらず、杖をつき腰にコルセットを巻いてようやくバスに乗れる不自由に耐える日を送っていた連れ合い殿。脊柱管狭窄症を抱え、軽やかには足を運べない私から見ても痛々しいと感じていたが、ある日友人と交わした電話から一変したようだ。
今は関東に住む、交友歴60数年のその友人は、数年前から脊柱管狭窄症を患い、足腰の痛みで歩くのも苦痛になっていたらしいが、整形外科医の勧めでリハビリ運動に加えて電気刺激治療を受けたところ、121回受けたところで痛みが除かれ、テニスも出来、試合にも出られるようになったという。
そんな夢みたいな話があるものかと、なかなか信じられなかったが、明るい声で回復の様子を語る友人の言葉に、では自分は122回やってみようと決心したという。
とは言え、一日たかが10分で何の効果があるのかと疑問半ばで受けていたようだが、20〜30回通ったあたりから様子が変わってきた。いつの間にかコルセットを着けなくなっている。通院も時にはバスでなく徒歩で行けるようになった。一日わずか10分の積み重ねがこんな結果になった。まさにちりも積もれば山。
それにしても、友人との電話がなかったら、10回でも続けようとはしなかっただろう。たまたまの電話で伝えてくれた友人に感謝しながら今日も電気椅子に通う姿を見送る。
これがあと80数回続くのを想像しながら。
(カナダ友好協会代表)
