2026年04月16日(木)

コラム・エッセイ

科学と非科学

新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子

 原発事故の後発生し続ける、放射性物質を含む廃水を可能な限り浄化した「処理水」を更に海水で希釈して太平洋に放流するという、いわゆる処理水海洋放出が開始され、これを問題視した近隣の大国が日本産海産物の輸入一律停止措置を発し、二国間の大きな政治・経済問題になっている。

 問題にされたトリチウム残存濃度は十分低濃度であるものを、更に数倍にも薄めて放流するのだから、この状態が維持されることが確実なら、いったい何が問題なのかと、放流に係わった人たち、多くの日本国民は思うだろう。

 しかし反対者にも言い分はある。元々が有害物質を含んだものなのだから、いくら薄めても絶対安全とは言えないだろう。飲料水を供給するダムに、濃度は問題ないからと毒薬を1滴注いでもいいか問われて「ハイ」とは言えない。数値的にも現実にも全く心配ないことを示して説得・納得を得ることが必要なことは、他の問題でも言えることだ。

 この問題で対応を難しくしているのは、放流が安全か否かでなく、これを材料に政治・経済的ダメージを通じて自国に有利に外交を進めようとする某大国政府とそれを阻止しようとする日本政府との政治・経済問題化し、どちらも引くに引けない状態になっているからだ。

 適切に求められた数値に基づく処理水放流安全の主張に対して、ダムに1滴論を非科学的と批判する声が我が国を中心に上がっている。

 しかし、科学的という主張は必ずしも主張者の正当性や優位性を意味しない。科学的と受け取られていることはその数値も方法も理論も、多くの人がそれを真実と信じて受入れているに過ぎない。天動説もガリレオ以前の時代に生きた人たちには真実で、天動説で宇宙を考えることが当時の人には科学的だったのだ。

 今ではニュートンやアインシュタインの唱えた理論で世界を理解することが科学的と誰もが信じているが、新しい理論が現れて皆が信じれば、今の解釈は非科学的となる。

 最高の技術で処理し、最高性能の測定器で求めた濃度を信じるのが科学的、それを受入れないのは非科学的だと批判しても、ダム1滴論を論破することは永遠に出来ないだろう。

 これを説得できるのは、「科学的に得られた」数字をただ示すことでなく、放流する我々への信頼と、それを認める世界世論の力。科学の力の説得力を増すためには、放流の安全を示す数値をひたすら追うのでなく、日本の持つ科学の力が両国を含めた人類の安全と繁栄に大きく貢献できることを示すこと。

 大気汚染、海洋汚染、マイクロプラスチック問題、地球温暖化、エネルギー源転換に関わる問題対策技術開発等を通じて処理水放流に不条理な反応をする国を含めて、世界に貢献し、信頼を得ることではないだろうか。

(カナダ友好協会代表)

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