2026年06月15日(月)

コラム・エッセイ

日本の忘れ物

新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子

 華々しく展開された七夕都知事選。波乱といえば波乱の幕開け、順当といえば順当の結果となり、勝敗の結果だけを見れば政権党の地力が勝ったと受け取ることも出来るが、政権党勢力も野党勢力も反省を迫られる投票結果であったと感じる。

 同時にこの選挙で起こった異様な動き(泡沫候補の多さやポスターの異常掲示など)は、少し前の国政選挙で起こった選挙妨害事件と合わせて、今日の日本が直面している問題と課題を浮き彫りしているように感じられる。権力の座にある為政者が今考えなければならぬことは、裏金問題をうやむやのうちに幕引きすることではなく、将来を託す若い世代にどのような社会を引継ぐのかを、真剣に考えて政治課題に取組むことだと思わせる。

 今回の選挙を通じて強く感じられたことは、日本社会のモラルの変化だ。

 戦後日本社会のあだ花バブル経済期以降ことある毎に顔を出していたのは、バブル経済末期に経済犯罪を犯した若手経営者が言い放った「していけないことなら、法律に書いておいて下さいよ」に代表され、今回の選挙での大量立候補、異常ポスター掲示や衆院補選での選挙妨害者の「違法ではない」という言い分までを貫く「法に触れなければ何をしてもいい」という考えだ。

 それと共に日本社会を覆う将来に希望を見出せない空気感。その空気を醸し出しているのは人間の尊厳の否定だ。従業員を必要なくなれば簡単に解雇する。人を物作りの材料としてしか扱わない非正規雇用の定着だ。人をものとして扱うことがどれだけ社会の人間関係を変えてしまうか、肌で感じている世代も多いことだろう。

 職場を共にする者は同じ仲間として、力を合わせてよりよい物作りに励み,成果を共に喜ぶという人間関係をいつしか日本社会は捨ててしまったようだ。

 いま日本社会の喫緊の課題は少子化対策となっていて、異次元の少子化対策を政策の金看板に掲げて人も金も集中させている。それに大きな異論はなかろうが、政治の役割はそれでいいのか。どんな社会を次の世代に残すのかを考えるとき、少子化対策は必要条件に過ぎず、将来に希望のある社会再現のための十分条件ではない。

 かつて世界が「ジャパン アズ ナンバーワン」と賞賛した栄光の日本を支えていた、したいことよりしてはならないことしなければならないことを優先させるという行動基準を取り戻させる教育改革と、人をものの上位におきながら常により良いものを目指すという物作りの精神に支えられた産業構造の復興、日本社会が捨て去り、忘れ去ったものの回復が、次代を担う若者が希望を持って将来を描ける日本社会回復のために、世の選良たちが少子化対策と並んで懸命に取組むべき政治課題だと思う。10年後にどんな領収証が公開されるのか、しっかりと見させてもらおう。

(カナダ友好協会代表)

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