2026年09月30日(水)

コラム・エッセイ

してはならない、したいこと

新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子

 パリ五輪の開催中に今更という感もあるが、近年の日本社会の様々な問題に通じることだと感じるので、あえて取り上げて考えてみたい。

 オリンピックの日本代表となっていた選手が代表辞退となった事件。20歳未満であるのに飲酒喫煙したことが明らかとなった。法律で禁じられていることをしたのだから問題になって当然だが、代表辞退という結果にごうごうたる賛否両論が沸き起こっている。賛否といっても、飲酒喫煙の善し悪しではない。禁じる法律まであるのだから、悪いに決まっている。だが、代表辞退までさせることなのか、国内での熾烈な競争を経て選ばれ、現地入りまでしていたのに、急きょ呼び戻して代表辞退させ出場できなくするのは、まだ子どもと言えるような若者に酷ではないか。

 違法といっても罰則があるわけではない。法で処罰されるわけではないのだから、きつく叱って深く反省させるくらいでいいのではないか。前途ある若者の将来を考えてやろうというのが、代表辞退はやり過ぎ派の心情のようだ。

 実際には代表辞退となったのは違法行為が理由ではなく、所属団体の禁止規則違反の問題だと伝えられたが、それとても処分ではなく本人の辞退という形になっていて、何かすっきりしない結末は新たな論争の種にもなりそうだ。

 もちろん出場取りやめという結果を当然という意見も多く、正論の行き着くところはこうなるべきだと思う。この騒動を通じて少し異様に感じるのは、世の識者あるいは有名人と言われる人たちから、この選手の行為を正しいとは言わぬまでも、代表辞退に追い込むのは酷だ,間違っているという意見が多く出ていることだ。

 オリンピック本番を控えて本人の精神的ストレスは極限に達している。その緊張を解くために、つい酒やたばこに手を出しても、その気持ちは分かってやろう。まだ子どものこの選手にそれほど厳しくするなら、他にも同じ処分をしなければならない例はいくらもあるという。それは思わず道を踏み外した若者に対する大人の思いやりかもしれないし、反省かもしれない。

 しかし、それは間違っている。この選手は緊張に耐えられず、思わず禁断の行為に走ったのかもしれない。今は猛烈に反省しているのかもしれない。だがそれはしてはならないことを自分がしたかったからした、ということだ。

 世の中で行動するとき大切なことは「しなければならないこと」「してはならないこと」を「したいこと」に優先させることだ。この順番を間違える人が多数を占めると弱者は生きられない世の中となる。

 若い世代にこそこの優先順位をしっかりと身につけさせなければならぬのに、識者・有名人と自負する人たちが筋違いの言い分を公言するのでは、「法律て禁じられていなければ何をしてもいい」という、昨今の政界以上の恐ろしい世の中になりそうな気がする。この選手にもどうかもわかって欲しい。

(カナダ友好協会代表)

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