コラム・エッセイ
困った患者 困る医者
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子桜の時を終えて新緑の季節。気持新たに新年度の活動に取組む時だが、AI関連技術の日々の進歩に自分達の係わる事業も肌に感じる影響を受けていて、後期高齢者にはついて行くというより引きずられるというのが実感の毎日となっている。
こんな世の中に現役で関わるなんて、二昔、いや、一昔前には想像もしていなかった。幸い若い人たちの力で楽しさも感じながら取り組めているが、これを続けていくために必要なことは、若者達と張り合えるように技術・知識の向上に努めることより、毎日元気に話し合えること。日々健康第一を貫くこと。このことにはわがつれ合い殿も気持ちは全く同じようだ。
3年前、九死に一生を得て冥土との境から運良く引き返したあと、ステッキを手に、リハビリ運動と称して毎日のように繁華街を闊歩できるまでに回復し、非常勤ながら職場復帰も果たしている。ひと月ごとには近所のクリニックを訪問して経過観察と服用薬の処方を受けている。院長は私達よりもやや高齢の元大学医学部教授で、温厚に、時には厳粛に診察してくださっているが、さすがにお疲れのようで、週に1日は大学の医局から若い医師が代診に来ている。
皆さん本当にいい先生で、こちらの問いにも優しく丁寧に説明が返ってくるから、経過観察と処方箋を受けるのが目的の訪院は自然に代診日に偏る。老先生には失礼ながら、月に一度の話し相手は若い先生の方がいい。わがつれ合いも思いは同じらしく、通院はいつも同じ曜日を選んでいるが、簡単な問診応答のこちらに比べて訪院準備は大がかりになっている。
毎日朝夕欠かさない服薬と血圧測定の詳細記録、その時々の状態メモと疑問点をあれこれ記したノートを抱えていそいそとクリニックを訪れる。
ひと言二言の簡単な問診と前回の検査結果の説明があり、処方箋を受ければ「では、次回は来月何日」「はい。お願いします」で一件落着のはずだが、ここで終わらないのがこの患者。手にした測定記録を差し出し、この1カ月の測定値、最高血圧/最低血圧、脈拍の値を示し、時に現れる思わぬ変動の原因のあれこれの推定を申し立て、意見を求める。
「変動はあるでしょうが、一点一点気にするのでなくて、平均で見た方がいいですよ」
「私の病気、再発のリスクがありますよね。体調異常の自覚があってからでは遅いので日々測定しているのですから、どんな変動が大事か知っておかないと測定する意味がないでしょう」と食い下がる。
この患者が自分を困らせようと言っているのではないのは分かるから「うるさい、黙れ」とも言わず、1時間近くも丁寧に応えてくれたそうだが、内心辟易としている様子が目に見えるようだ。
この2年間で代診の先生が3代目になっているのは、もしかしたらこれが原因なのかと、若先生にも老先生にもそっと謝りたい。長生きさせていただきます。
(カナダ友好協会代表)
