コラム・エッセイ
プチぜいたく
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子うん十うん回目の誕生日が近づいたある日、立ち寄ったみどりの窓口でふと見かけたイベント案内パンフレットを手に取った。「或る列車」。何かふざけた感じのタイトルになぜか気を惹かれて手に取ってみた。2人1室3泊4日で九州1周の七つ星豪華列車の旅が話題と人気の鉄道会社の企画旅行で、長崎から佐世保まで、2時間半ばかりの旅程になっている。
贅を尽くした七つ星とは内容も費用も足下にも及ばないが、それでも趣向を凝らした内装を施した列車で、特別ダイヤでゆったりとした時間を過ごせるプランの案内の写真と記事に目を走らせているうちにスイッチが入った。
一年に一度の誕生日、七つ星には及びもないが、せめてこれくらいのプチ贅沢は許されるだろうと、傍らで余り興味なさそうに、手持ちぶさたの様子でいるつれ合いに、「これ、行くよ」とひと声かけ、パンフレットに記載されていた電話に申し込んだ。
誕生日まであと数日、どうせならと長崎市内見物も組み込んで長崎に着いた。そそくさと市内観光を済ませ、豪華列車の乗客となる。2人1部屋の個室と通路は地元の名工の手になる組子細工の格子戸で区切られていて、車窓も同じ寄木細工の格子、木製の一枚板のテーブルも同じ作者の手になるものだという。
席につくと案内嬢のにこやかな笑みと共に、これまた地元の木工工房の作だという木製の小さな食器に盛られた、ままごとのもてなしのようなお弁当が供され、地元の食材を使って、東京の有名レストランのシェフのレシピだと説明を受ける。
その後は、これがこの旅の目玉プランだという、これも地元各地の食材を使ったスィーツやドリンクが次々と運ばれ、一つ一つ説明を受けながら美味しくいただく。盛られた食器やグラスも、列車のロゴマーク入りの特注品ということで、味もしつらえも至れり尽くせりのサービス満点。中でも嬉しかったのは、誕生日か近い私のために誕生祝いメッセージ付きのスィーツのひと皿が準備されていたことで、海辺の路線を走る行程の車窓から眺める夕陽の景色と一緒に、一足早い誕生日を嬉しく迎えることが出来た。
申し込みには興味のなさそうだったつれ合いも、すっかりいい気分になったようで、案内嬢と饒舌に会話を楽しんでいる。思いつきで飛びついた日帰りの旅だったが、退屈する間なく時を過ごし、最後の駅では駅員さん達が旗を振って見送ってくれ、いい思い出を残してくれた。次の誕生日、楽しみ。
車中サプライズ
