コラム・エッセイ
地獄天国三往復
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子暦通りなら残暑お見舞いの時季だが、やはり暑中お見舞い申し上げるのがふさわしい酷暑の毎日。
この暑さに抗(あがな)うにはエアコンフル回転でひたすら体表温度を下げるのだが、暑さは結局脳で感じるのだから、脳に暑さを感じさせなくすればいいというのが、夏の夜の怪談。背筋も凍る恐怖感で暑さの感覚を抑えてしまおうという作戦だが、怪談より遙かに怖い事実があふれる現代では効果のほどは期待薄だが、それが今月あった。しかも二度三度。文字通り暑さも吹っ飛んだ恐怖の体験。
3年前に買い換えたノートパソコン。資料作りに、メールに、ネット検索に、家にいるときは寝るとき以外離せない。自分に関わる全ての情報がここに収まっていて、何をするにもまずパソコンの電源オンから始まるのだが、その日、電源ボタンを押しても電源が入らない。どんなにしてもダメ。ここまで来るとパニック状態。データの保存もしていないし、明日から、いや、今日からどうしよう。本当に背筋が凍る思いが襲ってきた。
恐怖は暑さを感じなくさせることを、何十年かぶりに思い出した。途方に暮れていたところに娘が探してくれたパソコンのお医者さん。すがる思いで申し込み。休日にもかかわらず遠くから駆けつけてくれた出張サービスの技術者が文字通り「地獄に仏」に見えた。サービス規則や料金説明を受けるのももどかしく、先へ、先へと目で促して彼の手元を追い点検内容を聞く。
結果は彼にとっては簡単明瞭で、点検のために開いた裏ぶたを閉じて注意事項を語る姿は、地獄から天国に救い上げてくれた神の声を聞いているような思いだった。ああよかった、これでまた使えると、安堵の胸をなで下ろし再びパソコンを前にすることが出来た。これが第1回目の地獄から天国へのエスカレート。
ところが次の日、また起こった。注意事項もしっかり守り、電源コードも取り替えたのに。なぜ、なぜ?もらった名刺の連絡先に何度電話をかけてもつながらない。どうしよう、どこに助けを求めればとまたまたパニック状態。本当に背筋が凍る思いに包まれて、暑さなど感じない。
やっとつながった電話の声は「同じように回復するかどうかは見てみなければ分からない」という当たり前のものだったが、「今別件に掛かっているので、今日行けるかどうかわからないが、念のため、これをやってみてください」のひと言。指示に従って、恐る恐るやってみると、出来た!回復!電源ランプが点灯し起動し始めた愛機を前に、またまた地獄から天国へのエスカレート。パソコンのお医者さんが神様だったことを確信した。
これで二往復。実はその後もう一度あったのだが、今度はさすがになぜそうなったのか、原因と要領が分かって自力で天国に戻ることが出来た。
酷暑続く毎日に、背筋を凍らせて暑さをしのぐリバイバル体験と、買い換えを覚悟したこの愛機にもうしばらくは傍で頑張ってもらえそうな予感を得た、8月の経過報告。
(カナダ友好協会代表)
