コラム・エッセイ
よく似た構造
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子一年の最後の場所を終えた締めの時期に大騒動になった相撲界。連日のようにトップニュースで伝えられ、国会論戦も、北朝鮮ミサイルも片隅に追いやられた格好だった。
力士たちの会合で一人の力士が殴打されて負傷し、本場所を欠場した。殴打した力士は事件の発覚後、引退したというのが、明らかになっている事実で、これはこれで大きな事件なのだろうが、問題がここまで大きくなっているのは、事実の背後にある真実に世間の大きな関心が集まっているからだろう。
負傷力士の部屋の親方はなぜ相撲協会の調査に応じようとせず、頑なに対決姿勢をとり続けるのか。関係者が著名であるだけに、世間の関心は強まり、憶測を呼び、さらに、事実とは直接関係なさそうな人間関係まで絡ま
ってきて、マスコミの格好の話題の種となっている。
この事件、視点を変えて見てみると、学校のいじめ事件によく似ている。ある学校でいじめがあった。いじめられた生徒はその後、不登校になってしまった。この生徒の父親は地元教育委員会のメンバーで、かねてから学校で起こる諸問題へのその場しのぎの対応しかできない教育委員会のあり方に不満と不信を感じ、教育行政のあり方の抜本的改革の必要性を主張してきたが、一向に改善の気配はなかった。
そこへ我が子へのいじめ。事実を知った父親は怒り心頭に発したが、ことの結末を教育委員会の裁定に任せては、これまで通り個別問題として処理され、責任の所在もあいまいなままに葬られると見越し、教育委員会には報告せず、問題の処理を司直の手に委ねた。
一方、教育委員会も調査に乗り出し、いじめた生徒は事実を認め、自主退学。いじめられた生徒の面談調査もしようとしたが、父親は断固拒否。
ここで問題の処理をこの委員会に任せたら、「いじめられて大変だったね。でもいじめっ子はもう退学したし、君の方にもいじめられる理由があったのかもしれないのだから、気を取り直して学校に出てきなさい」と処理されてしまう可能性が十分にある。
それで息子は通常に戻れるかもしれないが、それでは同じ問題はほかの生徒にまた起こるだろう。自分もメンバーだが、内実を知っているだけに、今の委員会のままこの問題の処理を任せる気には到底なれない。
この父親の頑なな姿勢は、外部からは一見非常識とも感じられるが、自分が当事者なら理解はできる。いじめの話は私の創作だが、今起こっている角界の話にほぼ重ねることができて、両者は同じ構造のように思える。
いじめの被害に遭った子どもの親の気持ちになれば、暴行を受けた力士の親方の行動は、私にはかなり理解できる。
信頼関係の構築への努力の大切さを感じさせる事件である。
(カナダ友好協会代表)
