コラム・エッセイ
第18回 スペイン・インフルエンザによって売れた「薬」
大正期 スペイン・インフルエンザと山口県の人々 小林啓祐前回、山口県におけるスペイン・インフルエンザの「第二波」が終息したところまでご紹介しました。今回からは、スペイン・インフルエンザが山口県内の社会経済に与えた影響についてトピックごとに紹介したいと思います。すでに、運動会などのイベントが中止ないし延期になっていたことや、医療がひっ迫している状況について紹介しましたが、今回は、スペイン・インフルエンザが猛威をふるうなかで「よく売れた物」について紹介していこうと思います。
2020年から続くコロナ禍のなか、記憶に新しいのが「マスク」の売り切れだと思います。周南地域はもとより、山口県内、ひいては日本全国の店頭からマスクが消えました。それは、もちろん人々が罹患しないため、ウイルス蔓延を防ぐためとった行動だったわけですが、100年前はどのようなものが売れていたのでしょうか。ちなみに、マスクについては第二波のときによく売れるので、別の回に特集したいと思います。今回とりあげるのは「薬」です。
写真の記事が、第一波の初期によく売れたものを報じる記事です。忙しいのは「お医者様と売薬商と氷屋」とあります。氷は次回にするとして、まずは薬屋さんに注目してみましょう。さて、どのような薬が売れていたのでしょうか。記事では具体的な名前が出てきています。風邪薬としてよく売れているのは、「アンチピリン」と「ヘブリン」だが、今回は「アスピリン」が最もよく売れているとあります。アンチピリンとアスピリンは今でも聞く解熱剤ですが、ヘブリンはちょっと聞かないかもしれません。参天製薬のHPを見ると、「かぜ薬」ヘブリン丸として1890年に売り出したとあります。つまり、ここで紹介されている薬はどれも風邪薬ということになります。買う人はインフルエンザに罹った人だけでなく、用心のために買う人もいたということですから、よく売れたでしょう。結局、アスピリンの値段もあがってしまったとのことでした。
この時代の医療事情に詳しくない人にとっては、薬で治そうとしていること自体、意外と思った方もいらっしゃるかもしれません。江戸時代は対処療法が多かったのですが、この時期には薬によってより積極的に疾病を治そうとしている姿がよくわかるのではないでしょうか。
1918年11月4日『防長新聞』=県立山口図書館所蔵
