2026年06月06日(土)

コラム・エッセイ

第24回 スペイン・インフルエンザとうわさ(2)

大正期 スペイン・インフルエンザと山口県の人々 小林啓祐

 前回、スペイン・インフルエンザが蔓延した時期に『防長新聞』に掲載された「うわさ」について紹介しました。前回の記事は「迷信」として記事で紹介されていたのですが、一見すると本当かどうか判断に困る情報について紹介していこうと思います。

 1918(大正7)年11月6日『防長新聞』に掲載された記事は、「西班牙(スペイン)感冒には蚯蚓が一番 煎じて飲む」というものでした。漢字がかなり難しいものですので、初見で読めた方は少ないと思いますが、蚯蚓はみみずとフリガナがふられています。前回とりあげた記事と同じように、単なるうわさのように思うかもしれませんが、そうではありません。

 記事では、スペイン・インフルエンザは「未だ病菌は発見されず」としながら、「漢方医に風邪の薬」として「最も重要がられた唯一の解熱剤」がみみずだったと報じているのです。みみずは今でも漢方として処方されることがありますので、この点については前回の「迷信」とされた記事に比べると信ぴょう性は高いでしょう。当然ですが、本コラムは当時の情報について紹介しておりますので、その効能や効果について保証するものではありませんので、悪しからず。

 問題は、その次に書かれている部分でした。記事では漢方としてのみみずの東京での評判が報じられます。記事によると東京では、普通の風邪薬を求める客に、この漢方を処方したところ「四十度の熱に苦しんでいた患者も一夜にして熱」が下がったと言います。さらに「今や東京の患者は大抵是を用ゐて魔病の手から脱がれて」いるとさえしているのです。この時期、程度の差はあれ、日本全国で依然としてスペイン・インフルエンザは猛威を振るっており、その勢いは増すばかりでしたので、これは明らかに言い過ぎです。しかし、漢方としてのみみずは値段が五倍に高騰したそうですから、買う人が殺到したことは想像に難くありません。

 この記事をみて、100年前の人たちを笑うことが出来ないのが今回のコロナ禍です。テクノロジーが発達した現在でも、多くの情報に振り回されたことは記憶に新しいことと思います。マスクだけでなく、色々なものがコロナに効くと聞いては多くの人が殺到しました。実は時代は変わっても、情報の真贋についてしっかりと考える姿勢が必要ということをこの件は教えてくれているのではないでしょうか。

1918年11月6日『防長新聞』=県立山口図書館所蔵

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