コラム・エッセイ
No.8 笠戸島の河津桜
美人薄命 走れ!おばさん 中村光子このところ、S夫妻が朝風呂、つまり、朝の温泉へ誘って下さる。朝風呂は、朝寝、朝酒、朝湯が大好きな、オハラショウスケさんのような風流人のすることだと思っていたが…。今、朝の温泉行きに、すっかりはまっている。私は、S夫君を、朝湯師匠と秘かに呼んでいる。
先日は、島地の温泉へ連れて行って貰った。その温泉は、1度に4人も入浴すると、肩がふれあいそうな湯舟だ。師匠は、ただ朝湯を楽しむだけではなく、温泉を出ると、色々な場所の道の駅であったり、ハチミツ屋であったりと私の知らない所へ、何の前ぶれもなく、お連れ下さる。私のこれまでの生活には、まったくなかったことだ。
その日は、島地温泉から、下松の笠戸島の河津桜を見に行った。コロナ禍で、不要不急の外出自粛中だから人出は少ないのでは、と思ったが、駐車場は花見客の車でいっぱいだった。
河津桜は静岡県の河津町の川土手に咲く桜で、ソメイヨシノより1カ月半ばかり前に咲くそうだ。2月半ばから下旬が見頃という。河津桜は、大島桜と寒緋桜との自然交配雑種で、濃い深い桃色の花びらをしている。
笠戸島の河津桜も見頃であった。桜並木の下を散策しながら、桜を仰ぎ見たり、その根元に咲く菜の花をめでたりと、行きつ戻りつした。
河津桜に導かれるように、歩道橋を渡ると、大きな恐竜が立ちはだかっていた。ティラノザウルスと、トリゲラトプスという恐竜だそうだ。何度聞いても覚えられない。2頭(?)の恐竜の体内をくぐり抜けると、家族村へ通ずる坂道へ出た。その坂道は急勾配だ。ひざ故障で痛みを持つS夫人と私は、坂道に弱い。
だが、坂道は程良い間隔がとってあり、交互にしつらえてあるから、休みながら、あえぎながら頂上の家族村をめざした。のろのろと歩みながらも強欲な私は、途中で、よもぎをみつけた。
私は空手の空先生の調理される“よもぎのちぢみ〟が大好きである。先生ほど上手にはできないが、よもぎをみつけると、ちぢみが作りたくなる。少しばかり摘みとらせてもらった。
見上げると、にぎやかな人の声がし、師匠が笑いながら立っていらっしゃった。師匠は車で先まわりし、いまかいまかと、我々を待っておられた。
私は32人ボーイフレンドがいて、毎日、デートしてもひとりかふたり余る、と豪語するのだが、師匠のような親切で気のつく男性を知らない。
ああ、良いお花見だった。
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