コラム・エッセイ
No.15 白内障の手術をしました。
美人薄命 走れ!おばさん 中村光子東の空から昇った太陽は、4階の病室のテラスの一点に光を集めている。その光の先が病室へ優しく差しこんで、私を丸く包み込む。
病棟の前には万葉の森が広がっている。萌黄色、薄紅色、深緑色など、大小さまざまの樹木はお互い色を競い合いながら、群青の空へ春の息吹をあげている。
私は今、朝食を済ませ、病衣から私服に着替えたところだ。実は白内障手術のため、徳山医師会病院に入院・手術をしたのだ。退院後の心得説明を受けるために、看護師さんと薬剤師さんが出される目薬を待っているのだ。
何年も前に、主治医のN先生から、白内障の手術をしましょう、と言われていた。無知な私は、まだ、裸眼で本が読めますので、と自我を通し続けていた。
先生が匙を投げかけられた頃、つまり、つい最近、手術をお願いします、と神妙な顔で言ったのである。先生は、私のわがままな断り方を忘れた風に承知して下さった。
視力の弱い左目から手術をすることになった。先生は、自院の午前中の診察を済ませ、昼休み時に執刀される。
関西に住む弟は、私より1カ月前に、白内障の手術をした。
「早くした方がいいよ、世の中、明るいよ、いやあー、驚いたよ、自分の顔がこんなにしわくちゃだとは思わなかったよ」
と笑った。
しわは別として、世の中が明るくなった、という言葉に、私の心は動かされた。
「手術は痛くも痒くもなかったんだがね、目薬をさす時間が決まっている上に、何回もさすんだよ」
弟の言う通り、臆病者の私も割と平気で、手術は無事済んだ。明けて今朝。先生は、ナント、朝の6時、に診察に来られた。寝呆けまなこの私は、あわてて病衣の前を合わせながら診察室へ急いだ。先生が眼帯をはずされた。
「…先生、とてもとてもよく見えます。いえ、見えすぎかも」
と言ったかどうか、忘れたが、こんなに明るいのか、世の中は…。咄嗟には信じがたかったのである。
まだ、薬剤師さんは来ない。私は再び、窓側に椅子を引き寄せた。世の中が明るすぎる程の視力を取り戻せた有難さは言うまでもない。が、無事、手術・退院することが出来るまでに、病院の仕事に従事されている方々、誰ひとり欠けていてはすべてがうまく行かない。私は“ちから”を戴いたことに感謝の外ない。
右目は10日後だ。白内障について聞かれたら、顔のしわには触れず、世の中は明るく、自然は美しい、と言おう。
