コラム・エッセイ
No.28 大野将平バンザーイ
美人薄命 走れ!おばさん 中村光子東京五輪オリンピック大会は、無観客で開催された。テレビの前に正座しての観戦で、眠れない夜が続く。コロナウイルスが世界に蔓延している中での大会だ。ある新聞社は、国内新型ウイルス感染者を県別に毎日発表している。
7月16日(金)、暇なので感染者が少ない県順に並べてみた。1位鳥取、2位島根、3位秋田と続き、山口県は17番目であった。
そんな状態のなか、2020東京五輪大会は開幕したのだ。私は有楽町の片隅で、競技者と一体となった気分で、勝敗に一喜一憂しながら、観戦している。
7月26日(月)は、空手の稽古日であった。尊敬する空先生(全空連6段)の空手道場は我が家の2階である。
その日、空先生は
「今日は、山口県出身の大野将平(29)と、ジョージアのシャフダトゥアシビリとの決勝戦ですから、皆で観戦応援を致しましょう」
と言われた。空先生は1年365日中に400回は空手指導に明け暮れるほどの、空手ひと筋の先生だから、その提案に、弟子一同驚いた。
10数人の弟子は、我が家の居間に座し、それぞれ、空手の準備運動のストレッチをしながら、まもなくはじまる73キロ級優勝戦に、固唾を呑んだ。
大野将平は7歳で、山口市内のスポーツ少年団に入部した。29歳までの22年間の柔道生活の間には、怪我や体調不良も、挫折も体験してきた。
試合開始、なかなか決着はつかず、延長戦にもつれ込んでも勝敗はつかない。9分を越える激闘の末〝支え釣り込み足〟という技で勝利した。
舞台から降りた彼の顔に、笑顔はなかった。試合の興奮もさめやらぬ内に、インタビューのマイクは差し向けられた。私はその時に発した大野将平の言葉をそこらへんの紙片に、急ぎ書きつけた。
〝正しく組んで、正しく投げる”
〝敵は、自分の中にある。心が動く瞬間があれば、と思います〟
しばらくしてから、彼はやっと笑顔になる。
熱心に見入っていた私たちは、頬を輝かせて惜しみなく拍手した。大野将平の健闘に圧倒されながら、我々の空手もいつもより、熱がはいった…です。
25日は、男子66キロ級の阿部一二三と、女子52キロ級の阿部詩の、兄妹優勝という快挙もあれば、24日は父に支えられて5大会連続出場した重量挙げの、三宅宏美選手の〝現役引退〟表明もあった。
全身全霊をかけ競技に臨んだ各選手、勝敗に関係なく発露する言葉は、美しく素晴らしかった。
