2026年07月23日(木)

コラム・エッセイ

No.23 また届いたよ、ラブレター

美人薄命 走れ!おばさん 中村光子

 名無しの権兵衛氏から、2通目のラブレターが舞い込んだ。私は今、雑多な物であふれている我家を眺め、一大決心をして、断捨離を決行中なのだ。

 そんな最中に届いたラブレターを急ぎ開く。

 “断捨離だと?がっかりさせないでくれ”で、はじまる力強い手紙にせかされて、先を急ぎ読む。

 “古い年賀状は大いになつかしんで、皆さんに改めて頭を下げて、元に戻すのが人として一番のマナー”で、ですって…。

 断捨離の最初に手をつけたのは、数百枚に及ぶ年賀状だ。差出人に詫びながら、涙をのみ、4つ切りに裂き、可燃ゴミの袋の底に敷き詰め、その上に、食材の切れ端や残飯、紙屑などを詰め込む。我ながら良い考えだ。

 ラブレター氏の説得(?)は、更に続く。

 “人生最後の日まで本は読みかえす。写真も眺めて暮らす。もう1枚、林写真館(ワタシの同級生)で撮らせろ―それこそ人の道、すべてを可愛い娘に進呈する”と、良いらしい?このラブレターは、まだ娘には見せてない。過日、この欄に「この家のものは全部、あなたにあげる」と書いたら、「何もいらない」と、娘は豪語した。

 待てよ、娘はラブレター氏の温かい助言に心打たれて、改心するかも知れん。もう一度話してみる必要ありだ。

 最後は、こう締めくくってあった。

 “あなた様のやるべきは、とにかく前へ前へと進み走ること。私達はそれを期待しております Go.ahead!”

 1枚目の絵葉書は、ラブレター氏のお手製ですネ、と言う私の鋭い勘に驚かれたのだろう。今回は酒井抱一の絵葉書にされたな、と浅学な私は、秘かに、また勘ぐっているのだ。

 少し言わせて戴ければ、人間はそれぞれ生まれも違えば育ちも違う。そして成長するに従って考え方も生き方も、それぞれ違ってくる。つまり、生活も価値観も10人10色だ。

 断捨離も良し、自分の好きな収集物に囲まれて、暮らすのも良いだろう。

 そして、それらについて、自分の考え方や生き方について、申しのべることも良いことだが、相手を、そっくりそのまま受け入れることも大切だ。

 この世に生を受けてすでに80余年、思考力も判断力も衰えてきた昨今、自分の狭い周辺しか見えなくなった。走ることはおろか、歩くことにも自信がなくなりつつある。

 私の世界とは一体何か。今一度、ラブレターを読み返している。

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