コラム・エッセイ
No.26 なんとも憎い、おふたりさま
美人薄命 走れ!おばさん 中村光子週に1度、友人のS夫妻は、湯野温泉に誘って下さる。コロナ禍で、ここしばらく自粛していたが高齢者から順次ワクチン接種がはじまったので、温泉行きが再開した。
温泉通いするとは、走れ!おばさんも、寄る年波には勝てんのじゃのう、と言うなかれ。立派な年寄りには違いないが、今のところ…元気…でーす。
その温泉で知り合った、素敵な2人の女性の話がしたい。見かけに寄らず、人見知りする私は、初対面のひとと友達になるのに、少し時間がかかる。だが、一旦、気の置けない仲になると、百年の知己のように振る舞ってしまう。これって図々しいかなあー。
そのひとり、Y女史は、広島から2時間半もかけてご夫婦で、湯野温泉に通われる。馴れ初めは、風呂の洗い場で、我が脂体をごしごしと洗っていたら、後ろから、声をかけられた。
「お背中を、流してさしあげましょう」
お手製と思えるヘチマのたわしで、力をこめて背中を流して下さったのだ。自分では自分の背中は思うようには洗えない。ヘチマタワシ独特の、イタキモチヨサ、に思わず
「あー、いい気持ち。ありがとうございます」
と感嘆の声をあげた。歳を取ると、なべて、女性の髪をショートカットでまとめているひとが多い。ところが、Y女史の髪の毛は、背中の真中あたりまである長さなのだ。
「髪が長いと、お手入れも大変ですね」
面倒くさがりやの私が、思わず言ったら、彼女はにっこりされた。
「ご病気で髪の毛がすっかり抜けてしまった方の、カツラを作るために、髪をのばしているのです。あと、もう少し髪の長さが、足らないのです」
「…」
能天気な私の、考えもおよばない言葉に、改めて、Y女史の長い髪を目で追った。
もうひとり、I女史は防府在住で、ご夫婦で温泉を楽しんでいらっしゃる。
タコを茹(ゆ)でたような我が脂体の熱気を、脱衣所の扇風機でさましていた。I女史が、ラベンダーステックなるものを差し出された。自宅の庭で栽培した香草、ラベンダーを乾燥させ、長い茎をふたつ折りにし、頭の部分を膨らませてたばねる。細長い赤いリボンで数本ずつ分けて編み込んでラベンダーステックに仕上げる。私は勝手に匂い棒と名づけた。優しい香りに気持ちが、すーと安らぐ。
友人にも器用なひとがたくさんいる。色々なものを戴くが、こんな贈物ははじめてだ。何の取りえもない私は、深く反省の、今日この頃です。
