コラム・エッセイ
No.16 続・白内障の手術をしました
美人薄命 走れ!おばさん 中村光子関西に住む弟が、白内障の手術をした時に私に言った言葉に、少しこだわっていた。
「いやあー驚いたよ、自分の顔が、こんなにしわくちゃだとは思わなかったよ。姉さんも覚悟して手術を受けることだよ」
弟の忠告に、私は考えさせられた。主治医・看護師さんをはじめ、他の職員の方など、沢山のひとにお世話になるのだから〝我が顔のしわ”など噯気にも出さず皆さんに感謝のお礼を言おう。
「世の中は、こんなにも明るく、自然はなんと美しいのでしょう。ありがとうございました。4年前、先生に手術をすすめられた時にお願いするべきでした」
だが、両眼の術後、鏡に写った我が顔に、思わず後を振り返った。私の後に、誰かが立っているのかと思ったのである。
「あーこんなに老いていたのか!こんな顔で平然と人に会い、旅をし、日常生活をしていたのか!人から、歳の割には元気だと言われていたから、10年位は、ひとり暮らししても、大丈夫だなあ」
と高をくくっていた。
最初に左眼、今回右眼と、2回にわたって1泊2日の入院手術を終え、病院からの帰途、タクシーの窓から、町の風景を飽かず眺め、我が顔のしわのことなど、すっかり忘れていた。家の居間に荷物を置き、安堵のため息をつこうとした時、眼に飛び込んだのは、台所のビニールクロスの床の汚れのひどさだ。
そう言えば思い出した。ある時、友人の夫君から
「あんたんちは、汚いんだってね」
と言われたのだった。
毎日とは言わないが、2日に1度は拭き掃除をしている。まあ、4角い部屋を丸く掃いたり拭いたりかも知れないが、そんな言い方はないでしょ!
と、少し、むっとしたし、時々、その言葉を思い出してもいた。だが、今、まさにその通り、我が家の台所の床は汚い!
只今、術後にもかかわらず、台所、洗面所のビニールクロスのへこみに付着している黒いしみと対峙し、先端を削いた箸と雑巾で、しこしこごしごしと、汚れをそぎ落している。暇にまかせ、しこしこごしごし…ほんの少しずつだが床がきれいになる。何となくうれしく、今や、秘かな愉悦になっている。
とは言え、古い家だから、深く切れ込んだ部所もあり、すべてがきれいになったのではない…。
先日、目に障害のあるイッチャンが、私のしこしこごしごし振りを見て言った。
「見える世界って、大変だね」
言いえて妙だ。
