コラム・エッセイ
No.53 ある1日
美人薄命 走れ!おばさん 中村光子友人夫妻が、週に2回、湯野温泉へ連れて行って下さる。最近、とみに記憶があいまいになったが、かれこれ2年以上になる。うれしい贅沢な時間だ。
ところが、山口県が新型コロナの「まん延防止等重点措置」地区になり、温泉行中止だ。
友人夫妻はおいしいしょう油卸屋だ。温泉行きはしょう油配達も兼ねているので、コロナ禍でも配達はかかせない。
不要不急の外出を控え、家に閉じこもっている私は、温泉行きは中止だが、配達にも強引に同行する。それは私の楽しい息抜きの時間になるのだから…。
先日も同行したが、“世の中は狭い”ということを実感した。
その日、S夫妻はしょう油配達後、同業者の仲良しのT氏が亡くなったので、そのお悔やみに行くと言われるのだ。聞けば、T氏は私の中学時代の同級生であった。
何年かに1回、名門富田中学校の同窓会をする。同窓会終了後、お決まりの二次会に繰り出す。その時、T氏と何度かご一緒したが、亡くなったとは知らなかった。もちろん、おふたりが仲良しだったとは知るよしもない。繰り返すが、世間は狭い。
T氏宅を訪問し、S夫妻に続いて焼香させていただいた。更に驚いたのは、戒名を拝見したら、我が家と同じ曹洞宗派であった。
私の1日の行動は、目覚めると、北部屋のカーテンを開け、洗顔の後、洋服を着替え、仏前の花の水を替え、お茶を差し上げる。その日の朝、御飯を炊いたら、御飯を供え、お経をあげる。
いつの頃からか、曹洞日課勤行の般若心経を、そらんじていた。ある時、お寺の和尚様が「お経、覚えましたね」とおっしゃってから、更に拍車がかかった。褒められるのって何歳になっても嬉しいもの…です。
S夫妻は敬虔なクリスチャンだ。おふたりの神に対する真摯な姿勢には、背筋がのびる。S夫妻に続いて焼香しながら、自然にお経をあげている自分がいた。
T氏の奥方の入れて下さった、おいしいコーヒーを戴きながら、故人の思い出話に花が咲いた。それぞれの付き合い方で、思い出話は異なる。遅まきながら、T氏の知らない一面を知ったのも楽しい。
よその家にお邪魔することが少ない私は、失礼をもかえり見ず、きれいに整理整頓された部屋を無遠慮に、ため息をつきながら見渡した。
いろ紙で折った夫人の作品が家中にあふれている。それらをためつすがめつ見る私には言葉もない。
我が家の雑多な居間を反省した。「よし、帰ったら、掃除するぞ」。
