コラム・エッセイ
No.55 鳥がこんなに怖いとは…。
美人薄命 走れ!おばさん 中村光子S夫妻に、湯野温泉へ行こうと誘われ、同行するようになって3、4年になる。毎週、水曜日が「お風呂の日」であったが、土曜日も行くことになった。贅沢三昧とは、これを言うのであろう。
おんぶにだっこの私としては、2人の親切に厚かましく甘えることに忸怩(じくじ)たるものがある。何か自分に出来ることはないかと、最近、馬鹿を自認する頭で考えた末、土曜日には私が弁当を作ると決めた。
料理を作るのは苦ではないが、上手ではない。「弁当」とは、駅弁や、コロナの今、持ち帰り弁当など多種だが、私の弁当はたかが知れている。
だが、その弁当を持って、ある時は夜市川上流で川のせせらぎを聞きながら、またある時は福川北の標高200メートルの陶氏の若山城跡でと、あちらこちらの地で弁当を広げて楽しんでいる。川の流れや、可憐な草花を愛でながら食べる弁当は、下手な味付けでも貧相でも…おいしい…と、思う。
先日、福川の海水浴場の浜辺で、海を眺めながらの弁当はどうかしら、と提案してみた。優しいS氏は、車で右手に海を見ながら曲りくねった海岸線を走らせて、福川の海水浴場へと向かった。
風の強い日であったのだが、浜辺はにぎわっていた。野球部員らしきユニホームの高校生は、声を揃えて浜辺を駆け足で通り抜ける。若い男女のカップルは波打ち際で戯れている。家族で来ているのだろう、父親の両手に子どもたちがぶらさがっている。
S氏は、寒いので車の中で、弁当を食べると、言われた。S子さんと私は
「せっかく、浜辺に来たのだからね」
と言って、松林の中に、所々に置いてあるベンチに腰をおろし、しばらくの間、目を細めて遠くの島々を眺めた。春にはまだ少し早く、風も冷たいが、日差しはふたりをやさしく包んでやわらかい。
弁当を開いた途端、頭上が騒がしくなった。見上げると、何羽かのトンビが騒いでいる。更にカラスがトンビを避けながら飛んでいるではないか!S子さんも私もはじめてのことで用心を怠っていた。
しばらく我々の様子を見ていたらしいトンビが急降下し、S子さんの手に鋭い爪を立てて止まると、素早く卵焼きをくわえて去った。弁当の中身が砂浜に転げ落ちた。
「あら、砂だらけ、海水で洗おうかしら」
私達は大急ぎで弁当を食べたが、頭上を舞うトンビとカラスは羽音をたてながら、いっこうに去る気配を見せない。恐かったなあー。
