2026年05月29日(金)

コラム・エッセイ

No.64 まだまだある・新しい出逢い

美人薄命 走れ!おばさん 中村光子

 それはわずかな段差の滝の横で、五月晴れの空を仰いでいた。空はあくまで高く、2、3片の雲を気ままに浮かべている。

 我々3人の足が小走りになるのは、気持ちが早るからだ。

 そう、ここは山口市仁保の一貫野。藤の花の里だ。先週の土曜日、いつもの温泉通いの帰り道、養鶏場直営の食堂で腹ふくるるにまかせ、食べ放題の生卵かけご飯を食した後、仁保自治会の宝「しだれ藤の花見」と洒落た。

 連休だから、いや、藤の里がテレビで放映されたので、たくさんの人でにぎわっていた。

 しだれ咲く藤の花房は、川の流れや、時折吹く風のリズムに合わせるかのように花びらを散らす。流れる。

 受けて仁保川。静かに実に静かに花びらを旅立たせる。三々五々と集まった人、人、人は、寡黙ながら、舞いながら落花する藤の花を目で追い続ける。

 この“ひととき”を至福と言わずば、何と表現する。うっとりと藤の大木を見上げ、川面も浮き沈みする花びらを目で追う。我を忘れる時間は、たちまち過ぎ去る。

 「来年も来ようね」

 「そう、必ずね、でも私、美人薄命だから…約束は出来…」

 最後の言葉をにごしてしまった。

 帰途は、山口市から防府市へ抜ける道へと車を走らせた。細い道は曲がりくねっているが、きれいな舗装道路だ。ところが、防府市に入った途端、ガタガタ道になった。しばらくガタガタと走っていたら、舗装中の道に出た。市境など気にせず、スイスイと走れるのは当分先のことのようだ。

 その日、S夫妻は防府にあるカトリック教会のシスターに逢いに行かれた。そう、S夫妻はクリスチャンで、若い頃にお世話になったシスターと10年ぶりにお会いすると、話して下さった。 

 教会横のシスターたちがお住まいの玄関に立った時、私は緊張のあまり体が強ばり、直立不動の姿勢になった。

 ドアが開き、笑顔のシスターがお迎え下さった。2人は軽く抱き合いながら何度もハグされた。横で見ていた私にはとても新鮮なご挨拶にみえた。

 御年91歳のシスターは60数年前、スペインから来日されたと言う。お元気で日本語がとても上手だ。

 常日頃、でしゃばり屋の私、その日は借りてきた猫のようにお行儀よく静かに椅子に腰掛けて、3人の会話に耳を傾けていた。

 晩期高齢者の私、週2回の温泉行きもありがたいと暮らすつもりであったが、今日のように、まだまだ予期しない新しい出逢いがある。

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