コラム・エッセイ
No.64 まだまだある・新しい出逢い
美人薄命 走れ!おばさん 中村光子それはわずかな段差の滝の横で、五月晴れの空を仰いでいた。空はあくまで高く、2、3片の雲を気ままに浮かべている。
我々3人の足が小走りになるのは、気持ちが早るからだ。
そう、ここは山口市仁保の一貫野。藤の花の里だ。先週の土曜日、いつもの温泉通いの帰り道、養鶏場直営の食堂で腹ふくるるにまかせ、食べ放題の生卵かけご飯を食した後、仁保自治会の宝「しだれ藤の花見」と洒落た。
連休だから、いや、藤の里がテレビで放映されたので、たくさんの人でにぎわっていた。
しだれ咲く藤の花房は、川の流れや、時折吹く風のリズムに合わせるかのように花びらを散らす。流れる。
受けて仁保川。静かに実に静かに花びらを旅立たせる。三々五々と集まった人、人、人は、寡黙ながら、舞いながら落花する藤の花を目で追い続ける。
この“ひととき”を至福と言わずば、何と表現する。うっとりと藤の大木を見上げ、川面も浮き沈みする花びらを目で追う。我を忘れる時間は、たちまち過ぎ去る。
「来年も来ようね」
「そう、必ずね、でも私、美人薄命だから…約束は出来…」
最後の言葉をにごしてしまった。
帰途は、山口市から防府市へ抜ける道へと車を走らせた。細い道は曲がりくねっているが、きれいな舗装道路だ。ところが、防府市に入った途端、ガタガタ道になった。しばらくガタガタと走っていたら、舗装中の道に出た。市境など気にせず、スイスイと走れるのは当分先のことのようだ。
その日、S夫妻は防府にあるカトリック教会のシスターに逢いに行かれた。そう、S夫妻はクリスチャンで、若い頃にお世話になったシスターと10年ぶりにお会いすると、話して下さった。
教会横のシスターたちがお住まいの玄関に立った時、私は緊張のあまり体が強ばり、直立不動の姿勢になった。
ドアが開き、笑顔のシスターがお迎え下さった。2人は軽く抱き合いながら何度もハグされた。横で見ていた私にはとても新鮮なご挨拶にみえた。
御年91歳のシスターは60数年前、スペインから来日されたと言う。お元気で日本語がとても上手だ。
常日頃、でしゃばり屋の私、その日は借りてきた猫のようにお行儀よく静かに椅子に腰掛けて、3人の会話に耳を傾けていた。
晩期高齢者の私、週2回の温泉行きもありがたいと暮らすつもりであったが、今日のように、まだまだ予期しない新しい出逢いがある。
